Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

原子力潜水艦の意味

 先週、退任間際の菅総理が訪米し、コーンウォールのG7サミットに続く対面での首脳会談に臨んだ。舞台は「QUAD」、米豪日印4カ国の「Free Open Indo Pacific」を護る会合である。先日英米豪の三ヵ国からなる「AUKUS」が結成され、より軍事色の強い「対中包囲網」が出来上がろうとしている。象徴となるのは、オーストラリアへの原子力潜水艦技術の提供ということ。

 

 オーストラリアと潜水艦の共同開発をしていたというフランスは、協定を破棄され7兆円のビジネスが吹き飛んでしまって激怒している。一方日本では「対中包囲網」の軍事部分には入れてもらえなかったのかと、落胆している人たちも多いようだ。ただ原子力潜水艦保有するということの意味が分かっている人は、少ないのではなかろうか。

 

 潜水艦は「隠密性が命の運用が難しい艦種」である。いるかいないか分からない事で敵軍の行動を制約できるが、一旦探知されたらこれほどもろい戦闘艦もない。そういう意味で静粛性を重視すれば、どうしても通常動力艦に軍配が上がる。原子炉関連機構がやはり騒音を産むのだ。ではどんなメリットがあるかと言うと、通常動力艦よりずっと速い速度を出せることと、非常に長い期間潜航し続けられること。恐らくは後者により重きが置かれるだろう。

 

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 つまり戦術兵器ではなく、戦略兵器だということ。一番使えるのは「本国が壊滅してしまった後でも戦力を維持し、敵国に報復攻撃ができる」というケース。海軍司令部はもちろんホワイトハウスも非機能状態になっても、深海に潜む戦略核兵器を満載した原子力潜水艦が生き延びていれば、クレムリンを叩き潰せる・・・そんな抑止力としての「原潜」なわけだ。

 

 であれば、戦略核と核を搭載可能なミサイル、さらにそれを誘導できるシステム、目標を的確に捉える情報収集・分析技術が揃わなければ、原子力潜水艦単体での意義は薄い。上記のような技術開発・導入・配備・運用のコストに加え、戦略核兵器を持つことへの市民の反感などもあるので「日本の原潜」はほぼ幻と言えるだろう。

 

 それより仮想敵国の戦略原潜の通信封鎖してしまう技術開発の方が、ずっと魅力的だ。外部からの情報が入らなくなった「核のボタンを持つ艦長」が何をするか、統制を重視する海軍なら怖くてそんな戦力は持たないようにするでしょうからね。