Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

Trusted Web白書(1)

 一般に「自由」には「責任」が付いてくる。好きなことをするのはいいのだが、その結果には責任を持たなくてはいけない。ただいずれも抽象的な概念なので、誰もが分かるように「自由の範囲」やそれに伴う「責任の取り方」を明示することも必要だ。そこで各種の規範(法律・施行令・施行規則・通達からガイドライン)が定められ、市民はそれを守らなくてはいけない。「人を殺す自由」には「殺人罪による刑罰」が待っているわけだ。

 

 しかしサイバー空間では、上記の規範の整備が不十分だ。何度かご紹介しているように、リアル法ほどサイバー法のカバー範囲は広くないので、妙なことが起きる。例えば某市役所が廃棄したPCのHDDを横流しした奴がいて、市役所のデータが大量に漏れた事件。HDDそのものの窃盗だとすると、被害額は10万円ほど。しかし和解金は2,000万円近くになった。データ窃盗罪がないゆえの矛盾だと、僕は思う。

 

    f:id:nicky-akira:20210701085057j:plain

 

 規範の整備が遅れているせいもあって、自由な発展を遂げてきたサイバー空間(インターネット&ウェブ)にも影が差してきた。あまりにも自由奔放すぎるサイバー空間に、信頼を取り戻すにはどうするか?政府は2020年に「Trusted Web推進協議会」を発足させ、信頼あるサイバー空間の議論を開始した。

 

 キーワードの「Trust」は、2019年のG20で議長である安倍首相が提唱した「Data Free Flows with Trust:DFFT」からのもの。この宣言以来「Trust」ってどうやって獲得するんだっけ、の議論が続いてきた。学界・デジタル産業・各種団体(WEFも経団連も・・・)の意見を、政府が黒子になってまとめようとしたのが上記協議会。座長を「インターネットの父」慶應村井教授が務め、16人の委員で構成される。今年になって協議会は「Trusted Web白書 Ver.1.0」を公表した。今回、事務局を務めた内閣官房デジタル市場競争本部の人から、その内容を聞くことができた。

 

 冒頭彼は「インターネットとウェブがもたらしてきたベネフィットを活かしつつ、一定のガバナンスや運用面での仕組みとそれを可能とする機能をその上に付加していくことが必要」だと白書の目的を説明した。

 

<続く>