Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

近時のグローバル競争法(後編)

 ここで公正取引委員会や各国の政府機関が「付いていく」という言葉には、ご本人たちの意識を超えた深い意味があるように思う。主に述べられていたのはデジタルな証拠の扱い、限定された関係者に個別に事情を聴く捜査のやり方についてなのだが、これは他の犯罪捜査機関が同様に苦労している「リアル法とサイバー法のGAP」に類するもの。

 

 それ以上に何があるかと言うと、サイバー空間の大きさをどう考えるかの執行側の感性の問題である。よく政府当局は「この分野で圧倒的な世界シェアを持つ・・・」と巨大IT企業を捜査対象にする。ある種のSNSで世界シェア1位というのと、ある種のエンジンで世界シェア1位というのはどちらが大きいのか?サイバー空間の中のビジネスは、売上げや利用者数では、リアル空間のものよりずっと大きい傾向にある。どうもそれを当局の人達が感じていないように思う。

 

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 GAFAに代表される巨大IT企業といえども無限に広がるサイバー空間の中ではほんの一部を「独占」しているだけにすぎない。しかしリアル空間の経済に比べれば巨大ITは「巨大」ゆえ、独占しているように見える。この業界は垂直統合ではなく水平分業だと、なんどか申し上げてきた。リアル空間の点ではなく、サイバー空間では面の広がりがあるのだ。ある分野においては「勝者総取り」になっても、分野は一杯あるしまだ増え続けている。従来の感触で「独占している」と思ってもサイバー空間はもっと広いのだ。当局の執行官だけではなく、一般市民にもこのGAPを理解してもらうことが重要だと、今回痛感した。

 

 その他にも気になった点がある。例えば反トラストについて言うと、業者が意図的に「談合」して価格を吊り上げるなどしたらNGだが、フリマサイトなどで他社の動向をAIが詠み合った末に価格を吊り上げる「結果」になったらどうするのか?今回話題にはならなかったがこういう検討すべき点は多々残されているように感じた。

 

 根本的な問題としては、リアル空間の法律をサイバー空間に合わせようと無理をしていることにあると、僕は思う。データは「無体財物」だがら盗んでも窃盗罪が成立しないという目の前の問題から、今回勉強した独占禁止法・反トラスト法のサイバー空間適用まで、政府・産業界・学界含めた広範でOpenな議論が必要だと思います。