国境を越える自由なデータ流通は、世界経済を発展させる。データを受け取って活用した国(の企業)はもちろん、データをだした国(の企業)も当然フィードバックを受けるべきだし受けられる。双方でイノベーションが起きるからだ。これは何度も紹介している「デジタル政策の焦点」だが、単純にデータをやり取りすればいいというものではない。デジタルデータは物理的(電気的?)には0と1の羅列でしかない。
その「羅列」の意味するところを解釈するには、いくつものルールがある。これはMS-WordのFileだということが分からなければ、文書の閲覧や編集、印刷などはできない。いろいろな意味で、データのフォーマットやID体系、場合によってはニュアンスにいたるまで標準化が必要だ。
グループ企業間のデータやりとりでも、この問題は発生する。ある大企業の社長がやはり大企業のお客様の社長と会食することになり、当日の朝秘書に聞いた。
「今季、このお客様にはいくらくらい買っていただいたのか?」
さあ、それからが大騒ぎ。どちらも多くの事業やグループ企業を抱えていて、個別の事業部門には当然その数値はあるのだが、足し合わせるのに時間がかかる。結局計算が終わったのは、会食の日から1週間経った後だった。
それに懲りたせいか、この企業ではグループ標準のお客様ID体系を作ってデータベースを整備した。今では、上記のような幹部の問いには即応できるという。どのグループ会社でも「このお客様のID」を統一しておけば、足し合わせは自動でできるからだ。
企業レベルでそうなのだから、国と国をまたがったデータのやりとりを促進しようという「大阪トラック」の試みは、非常に意欲的なものだ。ただその試みにはいくつかの先行例がある。まず基本原則(データ流通に国境を立てない)としてはTPPがあり、フォーマットやID体系の標準化では欧州の「Digital Single Market」という取り組みがある。もともと統一市場が売りの欧州連合、デジタル分野でも国境でフォーマット変換やIDの書き換えをなくそうとしていることは何度か紹介している。
https://nicky-akira.hatenablog.com/entry/2019/12/20/140000
この記事で紹介したように、欧州で主に企業が苦しんだこと、その見返りに受けた利点は、我々のTPP域内でも参考になるはずだ。
<続く>