Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

日米産業界の共同声明(後編)

 今回の共同声明の「目玉」は、実は添付された「事例集」にある。かつてTPPに国境を渡るデータのルールを盛り込めたのは、この会合で両国産業界が「国境を渡るデータが、データを出す国にも受ける国にも利益をもたらす事例」を20余りも提出したからだ。漠然と「データを取られる、勝手に使われる」ことを危惧していた人たちは、その事例を見て、世界経済に寄与するとの認識に変わっていった。

 

 今回もデジタル化によるデータ活用、AIがデータで成長することを、事例を持って説明することで、両国産業界はデータ流通を促進しAIに対する偏見を振り払おうとしたわけだ。日本側から5件、米国側からは4分野の事例が集められた。

 

 次に「データガバナンス」だが、上記のようにデジタル化の本質はデータの迅速・広範な活用にあるのだから、それを促進したいとしてもいくつか障害が残っている。ひとつにはTPPに入れ込んだ「国境を渡るデータの確保」が、このところの国際関係の緊張もあり停滞する傾向にあること。もうひとつには、データ活用の新しい問題点が出てきたことである。

 

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 例えば中国の「国家情報法」には、中国の企業が持つデータは共産党政権が自由に(強制的に)徴求できる規定がある。このような行為を「ガバメントアクセス」といい、どこまで容認すべきかの議論が始まっている。例えば「COVID-19」禍において、個人の情報でも「公益」に資するなら同意なくても当局が使えるというのは、容認されるべきだろう。しかし外国企業との合弁をしている自国内企業に、外国企業の持ち分であるデータまで出せと言えるのは、越権行為のように思う。

 

 OECDなどで「ガバメントアクセス」についての議論が始まっているので、日米両国政府はフェアなルール形成に向けた協力をして欲しいと、産業界は訴えている。サイバー空間に国境はなく、デジタル世界の実現に向けては「グローバルに調和のとれたビジネス環境」が不可欠である。両国政府にはそのルール形成に向けたリーダーシップを発揮してほしいと、共同声明は結んでいる。

 

 各国政府も産業界も、自国・自社が儲かる、成長すると知れば、政策転換も図るはず。今回の「事例集」も、多様な場で取り上げられ、その起爆剤になってくれればと期待しています。