Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

Trusted Web白書(4)

 「Trusted Web」のスキームは良く考えられたものだが、大きな課題はこの仕組みをどうやってガバナンスするかということ。白書はプラットフォーマーに多くを握られながら、その内部がブラックボックスであることへの懸念を示していて、その対策としてこのスキームを提案している。だがマルチステークホルダーで透明性を持ってガバナンスできなければ、スキーム管理者が新たなプラットフォーマーとなって「多くを握る」ことになってしまう。

 

 マルチステークホルダーというのは美しい言葉だが、さて誰がやってくれるかというとみんな顔を見合わせることが多い。儲からないまでも「持ち出し」では続かないからだ。白書にも「エコシステムを持続的なものにするためのインセンティブ設計」が課題だと挙げられている。平たく言えば、スキームはいいのだがこれを廻すカネはどうするんだということ。

 

 よくあるのは、霞ヶ関が予算を付けて「2年はお金いらないからやってみて」という実証実験。「いいスキームだと確認できた」という報告書と共に、お蔵入りすることになる。ビジネスモデル確立に至らない実証実験を、僕自身一杯見てきた。「Trusted Web」構想も、ビジネスモデルが描けなければこれ以上進まないと思う。

 

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 Trusted Web推進協議会もそれはご理解いただいているようで、「Trusted Webで期待される経済的価値」が例示されていた。

 

1)「Identifier管理~Traceの4つの機能」を担当するベンチャー企業

2)信頼のチェーンを評価・お墨付きを与える機関(金融機関・監査機構等)

 

 のビジネスは確かに存在する。しかしこれらは「付加的な機能・価値」しか生まず、リアルマネーはやはりアプリケーション層でしか稼げない。

 

3)コンテンツとしての価値向上(メディア等)、異業種等とのコラボ増加、SDGs的社会貢献を価値に転換

 

 などの例が挙がっているが、もうひとつ実感がわかない。以前<eシール>に類する実証実験について「本当にビジネス相手の確認にどれだけコストをかけているか」が分からないと、取引相手の確認コスト大幅減という実験結果は信用できないと言ったのだが、ここでも同じ疑念が湧く。「信頼」はあったほうがいいのだが、それを確認するコストはある意味損金、少ない方がいいのだ。

 

<続く>