Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

Social-DXと政府への信頼(前編)

 先週毎日新聞が、前連合会長古賀氏の「デジタル庁が成功するには。政府に国民からの信頼はあるか」との寄稿を掲載した。日本は「デジタル劣等国」であるとし、「デジタル社会を進める(Social-DXと言ってもいい)ためには、国民の信頼が欠かせない」と新政権を叱咤している。

 

 古賀氏は「個人情報の漏洩や濫用を防ぐ、しっかりとした施策」が要ると言うが、対象は個人情報に限らない。AI-IoT時代になって、社会全体のデータに利用可能性が出てきた。自然現象から企業活動、おカネの流れなど、あらゆるデータの活用が進み、これらに対しても、「Government Accessをどこまで許すか」の議論がOECDなどで始まっている。

 

 企業の取引データなど(営業秘密の部分はあるかもしれないが)個人情報ではない。しかし社会の動向を知るには、非常に価値あるもの。マイナンバーには個人IDのほかに法人IDもあって、これで紐づければ企業活動のかなりの部分を分かる。ただそのような行為を政府にどの範囲まで認めるかが、上記OECDの論点のひとつだ。

 

 さらに経団連の今年の夏季フォーラムを経た提言の中にも「デジタル庁を司令塔として、デジタル臨調の設置を視野に、官民の密接な連携のもとに社会全体のDXを早急に進めるべき」との項目がある。

 

経団連:夏季フォーラム2021 総括提言 (2021-10-01) (keidanren.or.jp)

 

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 その中でも「DXに関する施策を進めるうえで、国民の信頼獲得は不可欠である」とも述べている。普通市民の政府への信頼というなら「信頼回復」と書くように思うのだが、「信頼獲得」と少し強い表現になったのは、デジタル政策では日本政府が一度も信頼されていないという意味を含めたかったのではなかろうか。

 

 また「デジタル臨調」という提案は、デジタル化以前に作られた多くの規制が生き延びていて、デジタル技術を導入できない分野・業務が多々あることを克服したいとの意図だろう。事実上、デジタル化と規制改革はセットなのだ。ただそれらの規制も、最初から特定業界を護るために作られたものよりは、消費者(市民)を護るためのものが多い。政府はそれによって、デジタル政策以外の分野では、「信頼」を得てきていたのだ。それを改革するには、政府にもエネルギーが必要だが、市民の理解も重要である。

 

<続く>