Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

電気通信分野の事故報告(後編)

 複雑化・巨大化したインターネット経済を背景に、電気通信事業者を監督する総務省がより広い事業者に対して権限を広げようとしているのではとの危惧を持った理由は「官僚は自省の権限を増やすと褒められる」と聞いていたから。普通に考えれば、

 

・タクシー配車サービスが止まったら、国土交通省

・キャッシュレス決済が止まったら、金融庁

・オンライン授業にノイズ(例:ポルノ)が入ったら、文科省

 

 報告すべきなのだが、「待った、待った、ネット経由の不具合は総務省が仕切る」と割り込んでくるような印象を持った。事故を起こしてしまった事業者としては、少なくともひとつ報告先が増えることになる。事故原因調査・検証のワンストップ化を図ろうとするなら、9月に設置が決まっている「デジタル庁」がまず受けて、事故原因が決済事業者なら金融庁に、ネットワークなら総務省に振るという形がいいと、僕は思う。

 

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 参加していた企業の多くは通信事業者だったり通信機器メーカーだったから、いわゆる「利害関係者」。それはまずいと思っても、面と向かって文句は言えず黙ったままだ。外資系など総務省と距離がある企業からは「他の省庁でも事故報告の検討をしている。屋上屋ではないか?」との意見も飛んだが、担当官は「安心・安全な社会をつくるため。事故を起こした事業者を責めるものではなく、再発防止のためのスキーム作りだ」と繰り返して、産業界の理解を求めた。

 

 たまりかねたように会合の座長が「まだ煮詰まらないうちに産業界と会合したいと言われた理由は何か?本件に関し総務省として、産業界に期待することは何か?」と聞いた。すると「これまで産業界各社には、事業者として報告・検証などにご協力いただいた。これからはそれに加えて、ユーザ企業の立場でも検証等に協力いただきたくて、早期に意見交換をしたかった」との回答があった。

 

 確かにデジタル経済で重要な役割を負っている総務省としては、デジタル庁の役割も見えぬ一方で複雑化したデジタル系の事故を捌かなくてはならない。それに対処する霞ヶ関内のスキーム作りに剛腕を発揮してくれるはずだった幹部は、事件で辞職した。後継者たちの多くも処分を受けている。霞ヶ関内の力学上、危機感が大きいのだろう。

 

 しかし僕の意見は変りませんね。これはデジタル庁主導で「デジタルインフラ事故報告・検証スキーム」を作ってほしいです。多少時間がかかっても。