先週「近時のグローバル競争法」の議論を紹介したが、僕は独占禁止法のデジタル産業への適用は、当局がサイバー空間の広さを知らないせいでより厳しくなっていると思っている。ただ当局はそれを百も承知で「テック企業叩き」をしているとの意見もあった。代表的なのは習大人のスタッフたちで、
・サイバーセキュリティ法
・国家安全法
などと並んで独占禁止法も駆使してアリババ・テンセント・滴滴などの企業を締め付けにかかっている。「ネット上の紅衛兵」とも言える勢力があって、これらの企業・企業経営者叩きを繰り返してもいる。広がる格差問題を、テック企業叩きでゴマ化そうとしているようにも見える。
それは「中国だからしようがないよね」と思っていたのだが、実は米国でも似た動きがある。今回バイデン大統領が出した"Exective Order"は、幅広い業界で進む企業の寡占化に歯止めをかける内容となっている。
バイデン氏の大統領令にテック業界反発「米経済の競争力低下につながる」(小久保重信) - 個人 - Yahoo!ニュース
いわく「競争なき資本主義は搾取」とのことで、寡占と疑われる企業を締め付け、拡大のためのM&Aを制限し、最終的には解体に持っていくのが狙いのようだ。このキーウーマンは、32歳で連邦取引委員会(FTC)委員長に就いたリナ・カーン氏。彼女はコロンビア大のロースクールの准教授だが、イエール大在学中に「アマゾンの反トラスト・パラドックス」という論文を発表して注目を集めた、反トラスト法の専門家である。彼女の抜擢は、GAFAを始めとする巨大ITを抑制したいバイデン政権の、目玉人事のひとつだった。
ただこの記事にもあるように、現行の反トラスト法ではGAFAなどの拡大を抑えることは難しいとする意見もある。現に昨年末、Facebookを反トラスト法で縛ろうとした裁判は「市場独占を示す証拠は不十分」で結審している。
この後、米国は反トラスト法の強化に走るのか?そうなったら本来コスモポリタンであるこれらの企業は、米国に留まるのか?中国の関連企業との関係はどうなるのか?興味が尽きない話題である。
翻って日本の状況はどうなのだろうか?先日のセミナーでは公取の菅久事務総長が「急激に変化する市場環境に当局も付いて行かないといけない」と仰っていた。このセミナーを経団連が後援した意味が分かるような気がします。