Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

日中ハイテク交流20年

 あるところで、中国でも指折りのAI技術企業の日本法人社長の話を聞く機会があった。彼は中国の大学を出た後京都大学に留学、日本のカメラ関連企業に就職した。恐らく大学時代の研究テーマだろう、画像認識技術の研究を続けたという。年代でいうと僕より5歳くらい若い。僕も大学院時代の研究テーマは画像処理だったから、ぼんやり彼のやってきたことは理解できる。

 

 1990年ころ、日本のデジタルカメラ技術は世界を席巻している。いやデジタル以前から、NikonCanonは老舗のLeicaContaxを事業規模で大きく上回っていた。精緻な工作技術で生み出されるメカの能力、レンズのキレなどは他国の追随を許さなかった。それがアナログからデジタルに代わって、加わってきたのはソフトウェア技術である。

 

 彼はアルゴリズムを考えプログラムを組み上げる中国人の頭脳が、そこに大きく寄与するようになったという。彼の得意とする「顔認識技術」は、その典型的なものだ。日本の匠の技に、中国人の頭脳、それに米国の資本やアイデアが加われば無敵だったという。

 

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 そんな彼は5年前に日本企業を辞め、中国で誕生したばかりの技術企業に移る。その理由は、国家の支援を受けた中国企業にも資本力が付き、日本からの技術導入で工作精度も上がったことがあるが、一番大きかったのは「顔データが一杯採取できる」ことだった。

 

 膨大なデータでディープラーニングして能力を高めるAI(人工知能)の時代には、以前にも増してデータ量が優劣を決める。日本でも米国でも、顔の特徴量データを採るには種々のステップが必要だ。中国ではもともと人口が多いだけでなく、そのステップが簡素化できている。その結果当該企業は、30年前の写真で登録をしても本人認証ができる(経年変化を予測する)能力を持つようになった。今は次のアプリケーションとして、自動運転用の道路情報・周辺の車の情報を読み取れるように開発している。

 

 彼は今でも日本のポテンシャルを評価していて、中国と日本が組めば米国に勝ると主張する。日本の聴衆から「米中デカップリング論が起きていて、日中共同プロジェクトの障害になるかと恐れている。どう思うか」と質問が飛んだ。彼は「とにかく良いものを協力して作るだけだ」と、ある意味はぐらかした。

 

 彼のハイテク交流20年史は面白かったのですが、「日中で米国に対抗」って僕には賛成できませんね。