Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

診療所のガバナンス問題

 先月下旬、日経紙が「医療再建」という特集記事を掲載した。初日の見出しは「開業医の統治不全、風穴を」だった。冒頭例示されていたのが、夜間の救急救命医療に開業医の協力が得られない問題。中核病院のこの指摘に対し、開業医側は「夜勤をしたくないから開業した」と反論している。記事では触れていないが「COVID-19」対応のベッドが逼迫した件についても、中核病院と市中診療所の連携がうまくいかなかった問題が指摘されていた。

 

 小規模な診療所では、デジタル化の推進も難しい。先月国交省のインフラメンテナンス県連の会合での、小規模土木建設事業者のDXの困難さの議論を紹介したが、医療事業者についても全く同じ問題がある。

 

インフラメンテナンス産業論(3/終) - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)

 

 いや、土木建築事業者が「デジタル分かんないからできない」と言っているのに比べて、もっと問題は根深いかもしれない。診療所(≒医師会員)側は、オンライン診療など業界全体のデジタル活用にも反対しているのだから。

 

        

 

 昨年末の中央社会保険医療協議会中医協)では、オンライン診療を全体の1割以下に抑えるべしとの議論になった。市民の税金が多く投入されて成り立っているはずの業界の割には、一部利害関係者の都合で制度が歪められている実態は看過できない。土木建築業などよりも、市民としては怒りを持って医療業界に改革を進めるよう促すべきだと思う。

 

 品川医師会など特定の団体では、スタートアップが提供するオンライン診療システムを導入するなどの取組がある。このような動きを全国に拡大していくべきなのはその通りだが、地域医師会単位でのデジタル化では規模的に十分かどうかは議論の余地がある。というのは、このところ病院を狙ったサイバー攻撃(特にランサムウェア)が目立つのだ。今年になってからすでに日本の病院の被害は7件、先月末に徳島の「鳴門山上病院」が被害に遭って、電子カルテが使えなくなった。

 

 以前紹介したように、ちゃんとしたIT導入によるDX推進は年商100億円くらいの事業単位は必要だ。またITシステムの故障や事故への対応だけではなく、上記のような悪意ある攻撃への対処をするにも、最低そのくらいの企業規模は必要だろう。そこまで見据えた、医療業界全体のガバナンス構築とデジタル化が求められていますよ。