Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

医師法第20条(後編)

 なぜ初診だけは「遠隔診療」ではいけないのか、医師の側からは「まず全体的な症状を見なくては、判断を下せない。遠隔で顔色はわかっても息の匂いや皮膚の触感はわからない」と突っぱねられてきた。推進派の人たちからは「初診料が目当てなのではないか」との声も出た。

 

 暗闘は永遠に続くかと思われたが、小泉内閣で「規制改革会議」が設置され、デジタル化の件もその大きなテーマになり、遠隔診療もそこで取り上げられた。2017年の規制改革計画の閣議決定では「対面診療・遠隔診療の適切な組み合わせで効果的なものは、次期診療報酬改定で評価する」との方針が出て、厚生労働省も、ようやく「情報通信機器を用いたルール整備」への舵を切る。ただ「安全性・有効性・必要性のない遠隔医療は、それへの信頼性を損なう」と釘を刺すことは忘れなかったが。

 

 実は純粋な遠隔診療ではないが、CTスキャン画像などの「読影」は画像がデジタル伝送されることは普通に行われていた。これはなぜかと言うと「読影」ができる医師が少なく、いちいち出向くことができなかったからだ。この例で分かるように、要は需給の関係なのだ。

 

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 業務の割に医師のリソースが足りなければ、デジタルでもなんでも新技術は導入してもらえる。一方医師のリソースが十分なら、現状の業務(&診療報酬体系)を変える必要はないという理屈だろう。

 

 「読影」についても問題はある。CT画像は(僕が関わっていた当時は)5cm幅で撮ると聞いた。これでは直径1cmの初期腫瘍は検知できないことも多い。だから1cm幅で撮ればと言うと、医師不足で無理だと言われた。そこで僕は、1cm幅で撮って画像認識にかけて怪しそうな画像だけマシンで選別して医師に見せれば、解決できると主張したが、ここでも「医師が肉眼で見ての判断だ」と突っぱねられてしまった。今なら人工知能(AI)で「読影」が全部できてもおかしくないのだが・・・。

 

 今回の「コロナ禍」、あえていい点を探すといろいろな分野で「働き方改革」のヒントが得らること。医療分野でもリソースがひっ迫してくると「読影」の例のように、急にデジタル活用が進むのだ。20余年議論してきて、遅々として進まなかった遠隔診療、特に初診が解禁されたことはこれを象徴している。

 

 感染症と懸命に戦っておられる現場の医師・医療関係者には敬意を表しながら、この件が「災い転じて福となす」ことを期待します。