Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

企業の責任、世論の責任(前編)

 このところ、急速に半導体産業に注目が集まっている。世界的な需要急増、自然災害による供給懸念、米中対立の焦点である台湾の大手TSMCの動向など、新聞のTOP記事に「半導体」の文字が並ぶようになった。

 

 「ルネサスエレクトロニクス」の社名など、TOP記事にあらわれるのは東日本大震災の時以来のような気がする。ちなみに同社の株価は2年前には600円以下だったのに、現在は1,150円あまり。増資が嫌気されてピークの1,368円から下げても、この水準だ。

 

 BSのニュース番組には、先日発足した自民党半導体議連会長の甘利さんが、連夜の出演。ある局は2時間の特番を組み、甘利会長やかつて「日米半導体交渉」の最前線に立った人まで出演するらしい。かつて「産業のコメ」ともてはやされながら、政治的には米国からの圧力で、経済的には産業としてのボラティリティの高さで嫌われたのが半導体産業である。

 

半導体産業、栄光と挫折(前編) - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)

 

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 その産業に再び陽があたるのはとてもいいことなのだが、人によっては「手のひら返し」と思ってしまいかねない。確かに世界的にDXが進む中、今半導体は不足しているし、米中対立やサイバー攻撃などのリスクを踏まえて経済安全保障の観点からも半導体産業は重要だ。だから自民党議連の会合では「麻生財務大臣も最高顧問に就任、産業への支援は成就まで近いところに来た」との発言もあったようだ。

 

 医療・教育・福祉その他「お金くれ」の大合唱が聞こえる中で、半導体産業に援助をしようという与党(政府?)の意向は歓迎したい。しかし先を見すえ、ちゃんとした経済安全保障戦略があるのなら、もっと早くそうしていたのではないか。

 

 また政府がそう思っていても、世論というものがある。行政改革で削るところは削り、民間でできることは民間でとする中で、一時期大儲けをした産業に政府が支援するということが、受け入れられたかどうかは不明だ。そんな空気の中で、政府も企業のTOPも、衰退の気配があり重荷にもなってきたこの産業を支えられなかったと考えるべきだろう。

 

 この事例は、ちゃんとした国家戦略を立てそれを説明する政府の責任だけではなく、企業や世論の責任も考えさせてくれるものではないか?

 

<続く>