Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

電子文書の通用性

 昨日、思わぬところで考古学者の先生から「ハンコの歴史」を聞かされた話を紹介したのだが、今回はトラストサービスの法制に詳しい弁護士さんからも話を聞くことができた。テーマは「電子文書の通用性」。

 

 サイバー空間での法整備が遅れていることは再三ご紹介しているが、特に個人・法人の権利・財産を守るための「文書」の領域では、遅れが顕著だと彼は言う。例えば電子署名法など、成立がいつのことか分からないくらい(ただしデジタル屋の時間軸で)古い法律だが、通用性に関する一般規則はまだない。例えば欧州には「eIDAS規則」があり、米国には「ESIGN Act」等がある。これらには、

 

 「電子的であるというだけの理由で、文書の法的効力、証拠としての許容性を否定してはならない」(例:eIDAS Article 46)

 

 が定められている。すでに一般規則であり、電子文書は紙文書と同様の「通用性」を持っているわけだ。しかし日本では、

 

民法では、契約の成立について書面を必要としないとしているが、法令による例外も規定している。

民事訴訟法では、情報を格納した媒体について書証の規定を準用するとしている。(あくまで媒体、有体物法の限界かな)

 

 のような状況で、これでは電子文書が法的効力を十分持っているとは言い難いというのが主張。

 

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 加えて、日本の関連規定はバラバラなことが、電子文書を使いにくくしているらしい。例えば、電子署名や電子認証について、

 

・商業、法人登記

・不動産登記

・各種委任状や添付書類

 

 で具体的にどうするのかは、相互に異なる。大元のものとして電子署名法の規定はあるのだが、それだけでは法的効力が十分ではない。いわば電子署名法2条の規定を満たしただけでは、「認印」くらいのレベルらしい。各府省が定める手続きでも、グレーゾーンが多く、府省毎(ひょっとすると担当課毎)に法的効力があるどうかの判断が異なる。

 

 そこで彼は乱立する電子署名・電子認証等の「トラストサービス基盤」を再整理して、

 

・認定電子署名(実印?)

・特定電子署名(銀行印?)

電子署名認印?)

 

 のようなレベルを設けるべきだという。まずここまではしないと、民間利用者としてはどの「トラストサービス」を使っていいか分からず、結局書証に頼ることになる。内閣府IT総合戦略室でタスクフォースを組んで検討しているようなので、その迅速な行動に期待しましょう。