Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

デジタル化とハンコの行方

 ある学会の国際コミュニケーション・フォーラムの案内が来た。このところ疎遠だったのだが、僕が同学会の役員を務めていたことがあり「ご興味があれば」との案内だった。テーマは「シン・デジタル政府:人にやさしいハンコにデジタル化は可能か」。技術的・法制度的課題だけではなく、調達制度などマネジ メントの課題、データ活用に関する透明性・信頼性の課題など山積する課題を克服し、デジ タル社会を牽引する政府(国・自治体)のDXをいかに行うかを議論するものとある。

 

 その夜の基調講演は、政界のデジタル通小林史明議員。「デジタル庁が実現する政府のDX」と題して、デジタル技術は進歩しているのに、古めかしい規制に縛られ利用が進まないと主張、まず行政そのものがルールを見直し変わっていかなければならないと「デジタル庁」の役割の重要性を説いた。来年マイナンバー法を改正し、ナンバー利用を教育・医療等へも拡大したいとの発言もあった。
 

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 続くパネルディスカッションのテーマは「人にやさしいハンコのデジタル化は可能か」。考古学者の教授と、電子契約を扱う企業のCEOが登壇した。電子契約サービスは着実に浸透していて、マイナンバーカードと電子契約サービスの結合もできるというのはいいお話。しかし考古学者さんからは、日本の印章の歴史(伝説の金印から平安時代の貴族の印章・戦国大名の花押・江戸時代の商人の印章・天皇の御名御璽まで)の話があり、「デジタル化は無益な印章を廃止するに限定せよ、総理大臣の印・首長の印など主権に関わるようなものは当然残すべき。例えば、御名御璽は不可侵」と仰る。
 
 文化として「実印・銀行印・認印三文判」は定着しており、運用上大きな問題はないとのご主張。無益な押印は廃止するのはいいけれど、いきなりデジタルは危ない、という議論ばかりになった。なるほど、行政改革を叫んだところでこういう主張を乗り越えなければならず、単なるハンコ廃止論での正面突破は不可能だとも思った。
 
 本来「サイバー空間で私が私であることの証明」の議論をすべきなのに、電子契約サービスの人が少しだけそれに触れただけで、議論は僕の希望したところまで到達しなかった。
 
 学会の主催者がテーマを「人にやさしい」と題した理由が、少しは分かったような気がしました。根気のいる話になりそうです。