先月、ヘンリー・キッシンジャー博士が100歳の誕生日を迎えた。表舞台にこそ立たないが、報じられる一言一言が深い意味を持っていると感じる。<タイム誌>は、
「現在の、真に多極化した世界において、キッシンジャー氏の現実的なアプローチがこれまで以上に必要だ」
と論評している。一つには、ウクライナ紛争の終結に向けた発言。「ウクライナは領土を犠牲にしても、和平を考えるべき」というもの。かなり早い時期に報道されたので「ボケたか」とも評されたが、世界平和の観点からは正しい(現実的な)解とも言える。
もう一つは、日本の軍備拡張に関するもの。「日本は3~5年で大量破壊兵器を開発する」とのこと。これをどう読むのかだが、バイデン政権への警告のような気がする。かつてソ連を倒すのに、米国は中国を使った。ほかならぬキッシンジャー博士が訪中してニクソン・毛会談(1972年)を演出している。
その結果ソ連は崩壊したが、次の挑戦者として中国が台頭した。いまや米国は単独では中国を抑え込めない。そこで日本の協力を得たくて、日本を再び闘える国にすれば、新しい脅威になり得ると言いたいのだろう。ロシアを叩くのはそこそこにして、中国包囲網でもインドや日本の台頭を招くほどにはしないという図式を想っておられるのかもしれない。
の記事にあるように、80年以上インテリジェンスの世界で生きてきた「妖怪」である。ベトナム戦争などの対外ミッション、大統領選挙への貢献、外国政府(含む日本)の対米危険要因の除去などに暗躍したと、この記事は言う。
博士の発言は、混迷する国際情勢の中では、これまで以上に注意して聴く必要がありそうです。