昨年、いくつかの記事で「陸戦の王戦車」という常識が崩れていると紹介した。今回のロシアのウクライナ侵攻で、これが実証されたと思われる。ウクライナ国境に20万人の兵力を集めていた時点では、最新鋭のT-90Mではないにしても多くの戦車がスタンバイしていたと思われる。直前のベラルーシでの軍事演習(西側メディアに公開し、英語ナレーションもあり)でも、戦車隊の機動・砲撃シーンが目立った。
戦端が開かれた直後でも、ロシア戦車隊が早々にキーウ・ハルキウを包囲すると思われていた。問題があるとすれば、ディーゼル油をガブ飲みする戦車隊に十分な補給ができるかどうかだけだったはず。
・圧倒的な戦車の数
・まだ泥濘にならない凍土
・ほぼ平地で機動に障害なし
・緒戦でウクライナ側の航空戦力を叩いた
という好条件があったからだ。ところがもう1ヵ月経つというのに、キーウ近郊からは逆に推し戻されているほどの苦戦。いろいろな要因はあるが、戦車大国ロシアの第二次世界大戦スタイルの戦いが、通用しなくなったことが大きい。恐らく主役になったのは衛星画像や通信傍受で得られるインテリジェンスと、歩兵携行対戦車兵器「ジャベリン」だろう。
「ジャベリン」とは「投げ槍」の意味。Fire & Forget式のミサイルで、特徴的な機能は、発射後上空に上がり、熱を発する目標に対してTOP-Attackをかけられること。前面装甲は厚くても、上部は薄いのは当たり前。上部を貫通して燃料や弾薬を誘爆させれば、一撃で重戦車でも撃破できる。リアクティブ・アーマーも役に立たない。
20世紀初めに戦車なるものが登場してから、歩兵がこれに対抗する兵器は、
・対戦車ライフル(特にフィンランド軍の20mmライフルは強力だった)
・火炎瓶(ソ連や日本のディーゼル駆動戦車は割合耐久力があった)
・対戦車地雷(人間がもって車体の下に潜り込む特攻もあった)
・携行無反動砲(いわゆるバズーカ、ドイツ軍はより強力なパンツアー・シュレックを作った)
くらいだったが、20世紀の終わり頃、対戦車ミサイルを歩兵が携行できるほど軽量化したことで状況が変わった。茂み等に隠れる2~3人の歩兵を見つけるのは難しい。ましてや遠距離から「撃ちっぱなし」できるような兵器は、戦車兵にとっては悪魔も同然。戦車は「鉄の棺桶」と化してしまう。
米海兵隊が戦車を全廃した理由、分かったような気がします。