20年ぶりに首都カブールに戻ってきたタリバン、以前は青臭い思想に燃えた「神学生」そのままだったのだが、米軍撤退を厳密に求めるのは当然としても、以後米軍とは争わないという姿勢や、イスラムの教えの範囲内だが女性の権利を認めるというなど「タリバン2.0」と自称している一面はうかがわせる。
加えてインターネットを操る能力もあり、「デジタルタリバン」の要素も見えてきた。そのこと自体は悪くはないのだが、気になるニュースも入ってきた。
焦点:生体認証データ、タリバンに渡るか 収集を巡る議論再燃|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)
難民支援などの目的で国際機関等が収集した、アフガニスタン市民の生体情報を始めとする個人情報を、タリバンが抑えてしまったのではないかという話。これらの情報が悪用(タリバンから見れば活用)されれば、その市民がどんな人で米軍や国連機関とどのような関係だったかが分かってしまうリスクがある。
この記事は、だから難民のデジタルデータ収集をもっと慎重にという論調なのだが、銀行口座はもちろん戸籍なども持たない難民の人達に支援を適切に届けるためには、これらのデータは非常に役立つものだ。むしろ国連機関等での収集・活用を制約するのではなく、今回のような非常事態が予想されるときは速やかにそれを廃棄することを徹底すべきではないか。
この記事では、データ管理をしていた機関がどのような行動をとったのかは分からない。一般にデータ活用には熱心な人たちも、データの管理、特に非常事態の対処については頭では分かっていても十分な訓練を積んでいるケースは少ない。またデータを完全に廃棄することの難しさは、何度か紹介した通りである。
ただ「データ活用」をずっと主張し続け、欧州委員会などの厳しすぎる個人情報保護のスタンスとは対立してきた僕だが、「デジタル・ナチスが大規模な民族弾圧をするのでは」という危機感は理解していた。今回は、彼らの危機意識が目に見える形で証明されたわけだ。
「デジタルタリバンの脅威」に対しては、彼らがカブールに迫ったころから、ネット利用者が自分の「フットプリント」を消しているという話もありました。デジタルは便利だけれど、いざという時の対処は個人も組織も考えておく必要があるようです。