Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

情報産業としての製薬業

 「COVID-19」禍で一躍注目が集まった産業が「製薬業」、日本のメディアは科学技術力の高い日本産業でなぜ「COVID-19」ワクチンが作れないのかと日本の製薬業を責める論調もある。彼らに責任を負わせるような報道は、いくつもの理由で誤っていると思う。

 

感染症研究は製薬業に限らず儲からない、だから本腰は入らない。

・ほとんどの大手製薬事業者はすでにコスモポリタン、日本の産業とは言えない。

・「鉄のトライアングル」と人口減少で、日本は市場として魅力を失っている。

 

 先週に引き続き、ある大手製薬業の人から話を聞く機会があった。今度は「鉄のトライアングル」についてではなく、グローバルでのデータ活用の悩みである。製薬業というのはオープンデータが基盤の産業、デジタル化以前から「情報産業」だったとのこと。それが昨今論文や治験データのデジタル化でDBが著しく充実、AI導入も進んできて業界自体が急速なイノベーションの波の中にある。

 

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 従来は研究者が必要なところに出かけて実験・治験をするのが多かったが、今やAIが実験結果を予測してくれるし、実験そのものもリモートでできる。実験は単にAI予測を裏付けるものになりつつあるらしい。まさにデータ活用によるDXである。ただ開発競争が激化する中、悩みも増えてきた。例えば、個人情報の壁。

 

 一般的な病気の治療薬なら、治験データ(ゲノム等も含む)は匿名化すれば自在に使える。しかし特殊な病気となると治験データは匿名化しても、対象者が少ないので特定されるリスクが高まる。一般的な病気から特殊な病気へと技術開発を進めていきたいのだが、そこには壁があったわけだ。加えて個人情報保護意識が(SNS等の不正利用で)高まりつつあり、公益に資するはずの製薬業にも厳しい目が向けられている。

 

 個人情報保護に特に厳しい欧州委員会でさえ、「公益に資するデータ活用」には理解を示している。しかし「総論賛成、各論反対」の傾向もあって、具体論は進みにくい。しかし世界的なパンデミックの今こそ、個人情報の公益利用の議論を日米欧英などの間で、具体的に進めるチャンスと思う。日本政府には、製薬業の個人情報活用をテーマに国際的な議論を進めてもらえるよう提案したい。

 

 「憲法の緊急事態論議は火事場泥棒だ」との批判もありました。これも似たような非難は受けるでしょうが、それでも提案したいと思います。