カウンターの前は串焼きなど焼き物の調理場、活きのいいオヤジが汗をかきながら先客の注文だろう串を焼いている。アクリル板で隔てられているので、僕は熱くも煙たくもない。つまみの方は、店員のお勧めに従って、
・秋の前菜、8点盛り
・刺身の盛り合わせ、お一人様用
を頼んだ。
僕の背中の方では、先客の2人が一段と声を潜めた。どうやら共通の上司の悪口を言っているらしい。内容は聞こえなくても、トーンでわかる。そういえば遠い昔、僕もそんなこと言っていたなと思い出した。
前編で「走り長屋」は、社用/半社用の店だと紹介したが、それゆえに客の入りは良くなさそうだ。そもそもテレワークで出勤者が減っている上に、多くの会社は夜の街利用に制限をかけているからだ。
・接待は禁止
・4人を超える会食は禁止
・二次会などはもちろん論外
僕の前菜が運ばれてくるころ、もうひとり立派な身なりのサラリーマンがやってきて奥のテーブルに案内された。僕が店を出るまでにやってきた客は、これで全て。熱海銀座が寂しいからとこちらに廻ってきたが、寂しさはどこも同じようなものだった。
前菜はすごくカラフル、左端がタコワサで、爽やかな<谷川岳>によく合う。右端は鶏ササミの和え物、<じゃんげ>の相方にした。秋の風情一杯の盛り合わせを少しずつつまんでいるうちに、この2杯はカラになってしまった。1杯大体90mlくらいなので、まだ呑み過ぎではない。しかし、メインの刺身の盛り合わせが来る前に<王禄>に手が伸びてしまった。
やがて主役登場、かつお・ブリ・マグロ・ムツともう一つは何かよく分からない白身の魚だった。食べやすさからいうとこの半分に切ってほしいし、自分で刺身を盛り付けるならそうするのだが、このくらい厚くないと見栄えがしないのだろう。お刺身をチビチビつまんでいるうちに<王禄>ガカラになり、追加で<王禄>を1合頼んだ。
無濾過ってこんなに味に違いが出るのだろうか?わからないままに、大体2.5合の日本酒を呑みほした。うーん、久し振りの「三杯セット」、なかなか良かったです。また来る機会があるでしょうかね。懐かしいこの街に・・・。