どこかの国では大統領経験者は片端から刑務所送りになるのだが、世界中を見渡して"Global & Digital"ビジネスで有名になった人が獄中死するということはあまり例がない。そんな珍しいことが、先週あった。亡くなったのはジョン・マカフィー被告。
セキュリティーソフト「マカフィー」創業者、スペインの刑務所で死亡 - BBCニュース
今は常識になったセキュリティソフト、僕も個人用PCには某T社のソフトを入れて、一応警戒している。しかしこの人物が1987年にアンチウイルスソフトを売り出したときには、少なくとも日本ではあまり注目されなかった。というのは、多くのコンピュータシステムが独立したネットワークで稼動していて、そこにウイルスが入り込む可能性は低かったからだ。
インターネットが商用サービスを始めたのが1988年、日本では同年慶應の村井教授がWIDEプロジェクトを始めるが、まだ大学での利用がほとんどだった。デジタル産業でも重要インフラシステム(僕の場合だと銀行システム)でセキュリティの重要性を考える人はいて、アンチウイルスや改ざん防止の試作品を作った。僕はMicrosoftのOS下でPCの時刻などの設定を書き換えるのを防ぐ対策ソフトの企画に関わったことがある。
しかし結論から言うと、全く商売にはならなかった。そんな時代に「マカフィー」はビジネスとして成功し、アンチウイルスソフトの代名詞となった。このビジネスマンはデジタルセンスがあってビジネスも上手い人だったが、かなり破天荒な人だったらしい。
・2011年、隣人が射殺された事件で指名手配されている。
・2015年、米国大統領選挙に出馬する計画を表明(実際はせず)。
・2020年、米国から脱税容疑で手配され、スペインで拘束される。
結局拘束されたスペインの刑務所で、未決被告のまま亡くなったという。享年75歳。自殺ではないかと言われるが、定かではない。そもそも薬物依存症だったことは、間違いなさそうだ。一時は資産1億ドルともいわれ、デジタル富豪の先駆者みたいな人だった。
デジタルビジネスの中でも地味な商品「アンチウイルスソフト」で名と財を成した人、結局脱税の容疑で逮捕されることになりました。同じ業界人として、複雑な気持ちではあります。