Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

HDD盗難事件の判決(後編)

 HDD10万円相当盗んだだけなら「コソ泥」の類だし、余罪もないということなら執行猶予付きの判決もやむを得ないかなとは思う。しかしこの事件が社会に与えた影響は小さくない。一つには前編で述べたように、(HDDの中にあった)データという無体財物には所有権も存在せず窃盗は成立しないということを、多くの人に知らせる結果になったということ。

 

 もう一つは、データを消去することの重要性と難しさである。「桜を見る会」のデータがあるとかないとか国会が騒ぎになった時、僕は「そんなものどこかにあるよ〜」とコメントした。

 

https://nicky-akira.hatenablog.com/entry/2019/12/04/060000

 

 個人持ちのPCで文書を作っていて、それがクラッシュしたら文書も消し飛ぶ・・・という時代ではもうない。どんな文書でも、書いている当人ですら気づかないところに保存されていることを、この記事で紹介した。データはコンピュータシステムの中で最も大事なもの、これを守るために技術者は長い間知恵を尽くしてきた。

 

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 だからこそなのだが、気に入らないデータがあって「根絶やしにしてやる」とばかり削除コマンドを連発しても、データは不死鳥のように蘇ってくるのだ。聞いたところによると、何度かフォーマット(全面白塗りくらいのイメージ)し直したディスクドライブでも、復元できることがあるという。

 

 普通のやり方では完全に消したという確信は得られない。だから僕は古いPCを廃棄する場合も、HDDだけは取り出して別の処理をする。企業など大きな組織で使ったPCHDDは、専門業者に渡して「消して」もらうわけだ。誰でも捨てるものについて十分な注意は払わない。僕が知る例外は銀行ATM、紙幣鑑別の機能がついているため確実に破壊した証明が必要で、事業者は非常に神経を使って廃棄する。

 

 今回の事件、「ブロードリンク」の従業員管理が不行き届きなのはその通りで、デジタル業界の「静脈産業」全体に疑惑の目が向けられてしまったことは看過できない。安心できるデジタル社会のために、データのエコサイクル(作成〜流通〜利用〜廃棄)を確立できるよう産官学連携の努力が求められますね。