Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

欧州委員会AI政策白書

 AI(人工知能)については、無限に広がるとも思える適用分野や人間では及びもつかない処理能力に対する期待が膨らむ一方、悪用されはしないか、人間がないがしろにされないか、自分自身が不当な扱いを受けないかという危惧も大きい。

 

 初期のAIシステムは、生まれたばかりの赤ちゃんのようなもの。なんでも恐るべき速度で吸収するだけに、与えるデータによって「神にもなれば、悪魔にもなる」わけだ。AI時代の初期、IBM社が誇る人工知能「ワトソン君」が、ヒトラー礼賛を始めてしまって大騒ぎになった。確かに第二次世界大戦を引き起こしユダヤ人虐殺をした政権は認められないが、初期のころは雇用を増やし産業振興をし効率的な社会を作った。「ワトソン君」はこの辺りを評価したのかもしれない。

 

 さて、人権大事、規制大好きの欧州委員会EU)では、AIを活用して社会イノベーションをしたい一方、その暴走を防ぐための規制も必要と「AI政策白書」の草案を2月に公表して、世界中からパブリックコメントを求めている。今回、産官学が集まってAI政策を議論する場に参加して、白書についても教えてもらった。

 

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 白書は、2つの観点を示していて、競争力強化観点として以下の点を挙げている。


・振興計画レビュー
・研究イノベーション促進
・AI人材育成
・中小企業支援
・官民パートナーシップ
・特定公共的セクターによるAI活用促進

 

 多分本当に言いたいことは規制観点であって、ハイリスク分野を特別に指定し、AI特別法制の追加(基準適合検査などの事前規制等)をするとしている。それ以外の分野では、既存法制(PL法など)を一部修正して済ませ、事業者が自発的にAI特別法制に従うことは妨げないようだ。ハイリスク分野として挙げられたのは、


・ヘルスケア、運輸、エネルギー、公共部門一部(司法・雇用・入管)
・就職活動、就業者権利、消費者保護、
・遠隔生体認証

 

 就業者、消費者という項目が入っているのがEUらしい。例えば採用や処遇をAIが行うとして、人種や思想、信条によって差別が生じてはいけないということだ。

 

 日本の産業界としては政府規制には反対の立場だが、以前ご紹介したように「AIシステム」の定義は未確定のままだ。どうしても規制するよというなら、「これは普通のITシステム、ちょっとアルゴリズム更新が速いだけ」と言い逃れる手段もある。このあたりを、EUには分かってほしいですね。