Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

昔南極、今サイバー空間

 昨年、フランスのマクロン大統領が「Paris Call」という宣言をした。これはサイバー空間の安全を確保しようとするもので、サイバー空間での軍事行動などを「自制」しようというもの。これまで中国やロシアが主張してきた、サイバー空間を「国家統制」しようとするものではない。日本政府をはじめ多くの国や団体が賛同しそれを表明している。

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 年末の大騒ぎにもなった、ファーウェイの創業者の娘逮捕(というより人質)事件など、サイバー空間に国家的な関与がありそこで情報を盗んだり金銭をだましとったりする事件は増えている。露見もしくは疑われるものが増えているだけではなく、露見しないものも「氷山の法則」ではないが確実に増えているはずだ。
 
 その内容も窃盗や詐欺にとどまらず、諜報や軍の作戦に近いようなものまで含んでいる。先日の慶應大学のイベントでは、あるパネリストが「昨今の軍事行動の80%はサイバー空間で行われている」と発言していた。

 僕が思ったのは、これって第二次世界大戦終結後の「南極大陸」の話に近いよねということ。かつては極寒の気象条件から冒険の対象でしかなかったこの土地も、科学技術の発展である程度人が過ごせるようになり領土化したり、核兵器の実験に使おうというヤカラが出てきた。そこで、1959年に日本を含む12カ国が結んだのが「南極条約」。南緯60度以南の南極大陸において、軍事的利用の禁止、領土主権の凍結、科学的調査の自由、核爆発と放射性廃棄物処分の禁止などが盛込まれている。現在52カ国が条約に加盟している。

 サイバー空間も南極に遅れること半世紀強で、人類が利用可能になった新しい空間である。新しいゆえに、従来法が適用できないことも多い。領土とか主権とかいう概念は、普通に考えれば存在しない。「地球はひとつ」を一足先に実現してしまった、全人類共有の空間である。
 
 これは考え方によっては、これまでの国というものを否定しかねない要素を持っている。国の否定は政府の否定につながり、革命が起きるかもしれない。なにしろGoogleなどは設立当時から「世界統一政府が出来たとき、それが必要とするものはすべてGoogleが提供する」と言っていた。究極の電子政府である。

 「Paris Call」を受けて主要各国政府にお願いしたいのは、もう一歩進んだ「サイバー空間の南極条約」のようなものを議論して欲しいこと。他国の市民の生命・財産に直接脅威を与えるようなこと(例:重要インフラへのサイバー攻撃)を含めて、軍事行動を禁止しインターネットに国境のカベを作るのをやめるような条約を結んで欲しいものだが・・・。