Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

サイバー・ジュネーブ条約論

 ロシアはまだ「特別軍事作瀬」だとして、今回のウクライナ侵攻を「戦争」とは呼んでいない。しかし実質的には戦争状態だし、非人道的なことは禁止されているはずだ。捕虜や傷病兵、民間人を保護するために<ジュネーブ条約>が制定されている。正確には<ジュネーブ諸条約>というもので、起源は1964年(クリミア戦争後!)の<傷病者の状態改善に関する赤十字条約>に遡る。1949年に現在の形になった。

 

第一条約 軍の傷病者の状態改善

第二条約 海上における軍の傷病者及び難船者の状態改善

第三条約 俘虜の待遇

第四条約 戦時における文民の保護

 

 しかし戦争の領域が宇宙やサイバー空間に広がるようになり、改訂が必要だとの意見が出てきた。特に「新しい戦場」であるサイバー空間については、ある巨大IT企業のCEOが、2017年の時点で<サイバー・ジュネーブ条約>の必要性を論じている。内容は、民間機関や民間人へのサイバー攻撃の禁止のようだ。ただ、当然のように思われるこの要求、実現にはいくつものハードルがある。

 

        

 

 まず戦時に狙って効果のあるものと言えば、軍隊そのものではなく敵国内の重要インフラ。金融・電力・水資源・鉄道などを攻撃すれば、軍事力は健在でも、継戦能力が下がる。これらのインフラの多くは、民間企業が運営しているのが常。

 

 次にサイバー戦は民間も容易に参戦できることがある。現実にウクライナ紛争では、<アノニマス>やIT企業が「参戦」して、多くはウクナイナ国民や軍を守っている。彼らが純粋に「民間人」といえるかどうか、議論があるだろう。

 

 ある専門家がウクライナ紛争を見て、こんなコメントをしていた。「サイバー攻撃を受けて、その相手をアトリビュートしたら○○軍だった。すると相手がその行為を反撃と見なして、こちらが参戦していると判断してさらなる攻撃をしてくる・・・こともあり得るだろう」

 

 こうなってくると、民間企業も「どんな条件が整ったら参戦できるのか」を考えなくてはいけない。軍事用語ではこの条件を、Rules of Engagement(ROE)という。民間企業でROEと言えば、Return on Equity(自己資本利益率)なのだが、もうひとつのROEにも気を配らなくてはいけないわけだ。

 

 ジュネーブ諸条約の第五条約(サイバー空間)制定は望ましいのですが、少し時間がかかりそうです。