Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

酸素魚雷と重雷装艦

 第一次世界大戦で有色人種として最初に一流国の入り口に入りかけた大日本帝国は、その大戦の結果手に入れたパラオ・トラック諸島などを足掛かりに太平洋経営に乗り出した。この南進政策は、カリフォルニアからハワイ、グアムフィリピンへの西進政策を続ける米国との摩擦を必然的に起こした。

 

 「Great White Fleet」と称せられる米国の大艦隊を見せつけられた帝国海軍は、仮想敵としての米軍主力艦隊を葬るための秘密兵器の開発を始める。どんなに重装甲の戦艦も、水線下の防御は厚くない。魚雷という兵器はそこに大きな破孔を穿つ有効な兵器だが、航跡を引いて目立ち、射程距離が短く、命中精度の低いものだった。

 

 帝国海軍は空気(酸素25%窒素75%)を使って燃料を燃やして推進する従来の魚雷ではなく、酸素濃度を高めた魚雷「酸素魚雷」を開発した。燃焼に関係ない窒素を排除することで、燃焼効率を上げ航跡を引かない(窒素を含まない二酸化炭素は海水に溶けて泡にならない)理想的な魚雷が出来上がった。射程距離は4万メートル(戦艦大和の主砲射程に匹敵)に及んだ。さらに炸薬量も跳ね上がって1発で小型艦なら消し飛び、中型艦でも戦闘不能にできた。

 

 問題は、さすがにそんなに遠くから撃っては命中率が低いこと。そこでこの記事にあるように「下手な鉄砲、数撃ちゃあたる」式の戦術が検討された。旧式軽巡洋艦を改装して、片舷20発、両舷で40発を発射できる「重雷装艦」という他に例のない艦種が出来上がった。

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https://trafficnews.jp/post/84879

 

 実際に完成したのは「大井」と「北上」の2艦だけだったが、艦隊決戦の切り札として期待されていた。その顛末については上記の記事を参照いただきたいが、要するに役に立たなかった。酸素魚雷とその関連設備である酸素製造装置は、きわめてデリケートかつ危険な装備である。戦闘機の機銃1発で巡洋艦が轟沈しかねない。「重雷装艦」は、中期以降の太平洋戦争では完全に近い航空優勢下でしか出撃させられない不安定な艦種だったわけだ。

 

 実際、太平洋戦争を扱ったシミュレーションゲームを何度かやったが、最初はこれらの艦を喜んで使う。しかしそのうちに「役立たず」であることが分かって、これらより1隻の駆逐艦を戦列に加えるようになったものだ。それでも、あだ花には魅力があるのだけれど・・・。