マドリードの3泊を終えてホテルをチェックアウト、歩いて10分ほどはかかるアトーチャ駅まで荷物を転がしていった。今日は、ここからバルセロナに向かう列車に乗るのである。ヨーロッパに大都市の長距離列車駅はおおむねそうだが、長距離線は行き止まり構造でその周辺や地下に近郊鉄道や地下鉄などの駅がある。
駅舎はかなり古いもののようで、カマボコ型のドーム構造になっている。これが旧駅舎のプラットフォームを覆っていたドームだろう。内部にはいくつかのショップや簡単なレストランがあり、中央部分は熱帯植物園のような風情だ。
スペイン国鉄(Renfe)が運行する高速鉄道がAVE(Alta Velocidad Espanola)で、最高時速は300km/hである。マドリード・バルセロナ間を3時間ちょっとで走る。出発時間の30分前には駅に行っておくことと言われていた。簡易な検査だが持ち物をX線でチェックするらしい。今日本の新幹線でもテロ対策で持ち物検査をしようかという話があるが、輸送人数がケタ違いなので日本では難しいと思う。
保安検査所に特段行列はできておらず、直ぐに構内に入れた。発車のほぼ1時間前に着いて時刻表を見ると、1本前のバルセロナ行きが出るところだった。のぞみが毎時4~6本出るのとは間隔も違うし1本の列車に乗る人数もずっと少ない。僕らが乗ったのは2等車、これでも1列は3席(新幹線は同じ標準軌で5席)だ。その上の特等や1等はもっと乗客が少ないはず。ゆったりしたシートに腰かけて見ると、車両はシーメンス社製だった。
定刻11時30分に列車はゆっくりスタート、揺れは全くなく快適な走りだ。徐々にスピードが上がり、車内のデジタル表示が時速297km/hあたりで上げどまった。そのころから、車窓に変化が見られる。イベリア半島特有の赤茶けた土が、徐々に黄土色に見えてくる。人家がなくなり木がなくなり、ついには草も見えなくなった。荒涼たる土漠が車窓一杯に広がるようになった。
これほど寂寥とした風景は、昨年イスラエル側から死海(Dead Sea)へ降りて行ったときに見て以来2度目である。同じ風景がずっと続くので、300km/hの速度が実感できない。マドリードのような大都市を少し離れると、イベリア半島にはこんな土地がひろがっているわけだ。
主な原因は降水量の少なさ、マドリード滞在中雨どころか雲も見なかったし乾燥はひどいものだった。列車は何度か、かつては水が流れていたかもしれない枯れ谷を渡る。かつてというのは1万年前か、10万年前か分からない。1時間半ほど走ってサラゴサの駅に着くまでは、ときおり集落が見えるだけの荒涼とした大地を走り続けた。サラゴサはピレネー山脈から地中海に注ぐエブロ川沿いの街で、ここ以降の車窓からは「雑草が生えている」風景が見られるようになった。
「世界の車窓から」を地で行くような旅のひとこまだった。2都市周遊企画にすると移動日がムダのように思えて今まではしていなかったのだが、列車の移動を間に入れるというのもいいものだと見直した。スペインのワインも食べ物も大地も、意外なことが多い今回の旅。まだ続きますよ。