Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

IT戦略という指針(3)

 土管の水をどうやって増やすか、その対策として「利活用の促進」というテーマが挙げられた。おりしも政府は「小泉改革」の真っ最中。民間でできることは民間に、という風が吹いていた。これは、IT業界にとってはいいことだったと思う。業界の問題は、まず企業の現場に現れる。時間が十分にあれば、課題を整理・分析し社会全体で整合性のとれる答えを見つけ出す「官僚機構」の能力は十分発揮される。
 
 技術進歩の早いIT業界では、その時間が十分にない。課題を整理しているうちに勝手に解決してしまったり、途方もなく大きな問題に化けたりする。そこで、企業や学界の現場を良く知っている人たちを集めて「戦略」を練り直そう、ということになった。これは、政府の方針「民間でできることは民間」の方向性にも合っている。
 
 ただ「利活用促進」となると、キャリアやIT(機器)ベンダだけでは手の届かない領域がある。取り上げられた重点7分野にしても、IT導入ができなかった分野や業務にはそれなりのわけがあったし、この「e-Japan戦略Ⅱ」が公表されて16年たった今でも乗り越えられていない障壁が存在している。

 以前、IT産業が市場開拓をするための視点として4点挙げた。その中に、「紙文書での処理が規制で定められているなどの場合には、ITを使えるように規制緩和を政界・官界に働きかける」というものがあって、規制改革の流れともあいまってこういう「戦略」議論は役に立つ。しかし、この規則のこの条文をこうしたら・・・という程度まで問題をつきつめられている例は多くない。

 また重点分野のひとつ「中小企業金融」に例示された「エスクロー(注)」なる仕組みにしても、すでに大手銀行では過去にトライアルしたことがあり実績があがらないため廃止した「過去の」システムだった。
 

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 なぜ実績が上がらなかったか?技術的な問題や法規制の問題というよりは、利用しようとする企業に「特に必要ない」と思われたからではなかろうか。経済的に必要性が無いか、あるいは心理的に抵抗感があるのか。戦略第二弾「e-Japan戦略Ⅱ」は、そのあと長く続く「行政やIT産業が、どうやったら利活用を増やせるか」の苦闘の出発点となったのである。

<続く>

エスクロー:商取引の際に信頼できる第三者を仲介させて、取引の安全性を担保する仕組み。ここでは、仲介を含めて全体を電子商取引で行うことを取り上げている。