Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

無敵空母艦隊を倒すもの

 昨年末、CIAの分析官を経験した作家が書いた「レッドセル」という小説を紹介した。正直、ここまであからさまに書いていいものだろうかと思ったのだが、勉強になったことは確かだ。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/12/30/000000

 

 19世紀末から20世紀の中盤まで、戦艦という兵器は最強の「戦略兵器」だった。厚い装甲、強力な砲撃力、機動力のある機関など、技術の粋を集めたものと言っても過言ではなかった。最後の戦艦といってもいい帝国海軍の大和級には、4万メートル先の着弾を観測するための光学測距装置があり、これは後に世界を席巻するNikonのレンズになった。

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 それらを葬ったのは、真珠湾を襲った南雲機動部隊の6隻の航空母艦。旧式となっていた戦艦7隻を撃沈破した。それ以降、海の王者/戦略兵器は空母機動部隊になった。その時代もすでに80年近くになる。技術屋の眼から見ると、それそろ次の戦略兵器が出てきてもいい頃だ。

 

 潜水艦というのも確かにある。これ自身もある意味の戦略兵器だが、空母機動部隊の一部でもあり完全な代替えができるとは思えない。代替え戦力に求められる機能として「レッドセル」の分析によると、

 

 ・高高度

 ・超高速 

 ・ステルス性

 

 がカギだというのだが、類似の意見を下記の記事が述べている。

 

https://globe.asahi.com/article/12989399

 

 確かに空母機動部隊の編制・運用には多額のお金がかかり、より安価な何かによって駆逐されるならそれは「代替わり」になるだろう。高価な戦艦が航空機(&空母)で駆逐されたのと同じことだ。いまはその航空機&空母(ついでに潜水艦)が高価になっている。

 

 空母機動部隊を持てないロシアでは、超高速ミサイルの開発やステルス機の実験(墜ちてしまったけど)を行っているらしい。

 

https://www.sankei.com/world/news/191224/wor1912240028-n1.html

 

 しばらく前は「使えない兵器」としてコスパの悪いものだった戦略核兵器が、国際情勢の変化で使えるようになってきた可能性を否定できません。ロシアだけでなく空母機動部隊を撃破したいヤカラは沢山いるので、今年は昨年にも増して、キナ臭い年になるような気がします。

DPF取引透明化法案(後編)

 新法「DPF取引透明化法案」の要点は次の4点。

 

 ・取引条件等の情報の開示

 ・運営における公平性の確保(手続き・体制整備、不当行為の禁止)

 ・特定DPF事業者のレポート、モニタリングレビュー

 ・法の適用執行

 

 ポイントは3点目の、レポート&レビューにあるようだ。「特定」された事業者は監督官庁に適正運用していることを報告し、レビューを受ける義務が発生する。それでまずいことがあると、4点目の「法の適用執行」・・・つまり処分されてしまうわけ。なるほどこれは大変だと思ったのか、いわゆる「GAFA(+M)」と呼ばれる企業はじめ、異論が相次いだ。

 

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 まず「特定」って何なんだよとの質問には、政府側は「大規模オンラインモール・アプリストア」を考えていると回答。DPFそのものは

 

ネットワーク効果があること

・多面市場であること

・インターネットを通じたサービスであること

 

 という定義で、これなら多くの企業が該当する。そこに「特に取引の透明性・公平性を高める必要性の高いもの」と付け加えられているが、あいまいでいつ自社が「必要性の高い」範疇に入れられるかわからない。加えて主務大臣は誰なんだっけというと、

 

 「取引に関するルール整備を所管する経済産業省が中心」

 

 との答え。これにも多くの企業が反発した。

 

・すでに公正取引委員会があり、経産省との二重行政。

・例えばFinTech市場に広がったら、金融庁経産省どっちが上になる?

 

 というわけ。経団連の当該部会を束ねている部会長さんたちも、口をそろえて法案自身の不透明性を訴えていた。行政としては、オンラインモール市場(9兆円、事業者100万社)、アプリ市場(1.7兆円、事業者70万社)で、特定のDPFに依存して従属関係になっている事業者を守りたいという。しかし独禁法ではだけなのという問いに、「独禁法の範囲を少し広げて・・・」という答えがあり、これは行政間の縄張り争いではないかと疑う企業もいた。

 

 これはまれにみる「スジ悪法案」ですね。デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めなさいと言っておきながら、こんなカセをはめて進歩の芽を摘もうとする動きには賛同できません。さっさと廃案にしてもらえるよう、通常国会にはお願いしたいです。

DPF取引透明化法案(前編)

 デジタル経済の急速な発展と従来市場への浸食が進んでいて、従来のルールではうまくさばけないことが増えてきたのは確かである。僕は「データ窃盗という罪状が存在しない」ことが、最も急を要する対処すべきことだと思う。ただどうもそういう意見は少数派のようで、今回取り上げたいのは、「デジタル市場のルール整備」を内閣官房で検討している人たちの話。

 

 英国の競争・市場庁は、GoogleFacebookがオンライン広告での影響力を持ちすぎているとして規制強化をする方向で動き出したとの記事があった。

 

https://jp.reuters.com/article/britain-digital-investigation-idJPKBN1YN03C

 

 日本でもこれに似た動きがあり、

 

・日本のデジタル広告は、2018年度前年比16.5%増の1.7兆円に伸びた。

  注)日本の広告市場は、約6.5兆円

・デジタル広告市場の56%をGoogleFacebookが占めている。

・いわゆる「ターゲティング広告」を不快に思う人は5割を超えている。

 

 のような背景で規制強化の議論が起きている。

 

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これに関連した話で、今年の通常国会には「デジタルプラットフォーマーDPF)取引透明化法案」が提出されるという。一体どんなものなんだっけ?と、内閣官房の本件担当事務局が経団連に説明してくれる場があったので行ってみた。

 

 例示されていたのはオンラインショッピングモール。DPFが場を用意し、売りたい側と買いたい側が出会って取引を成立させるというもの。利用者から、

 

・手数料が一方的に引き上げられる。

・返品を受け付けてくれない。

DPFに近い事業者をえこひいきしている。

DPF自身が同種の商品を後追い的に市場に投入。

 

 などの苦情があるという。最後の点などはデータ活用の典型例だが、もちろん利用者にとってプラットフォーマーはフェアであるべきで、訴えの通りなら「データの悪用」事例と言える。市場占有率が高いことから、DPFの権限は強まっている。しかし「優越的地位の乱用」ならば、現行の独占禁止法でも摘発できるはずだ。新法を作らなくてはいけない理由は、まだこの時点では理解できなかった。

 

<続く>

「イーブン」ってどういうこと?

 日本郵政のゴタゴタは、年末はおろか年始まで続いている。昨年のことで恐縮だが、1月初頭に辞任した日本郵政グループの幹部の最後の会見には申し上げたいことがある。長門社長の人物/人品については敬意をはらうものの、会見映像の最後に、

 

 「総務省事務次官が辞め、当方も上級副社長が辞めてイーブンだ」

 

 という発言があったのには、正直驚いた。これは、僕が鈴木茂樹元事務次官と交友があったこととは無関係だ。いかにも総務省日本郵政が対立関係にあって、「相打ち」でいいという風に見える。しかし両者は本来協力関係にあって、郵便・保険・貯金の業務を通じて市民・・・特に地方の銀行等が支店を置けない地域にユニバーサルサービスを届ける責務があったのではないか。プーチン先生の「北方領土・引き分け論」とはわけが違うのだ。

 

 問題はこの「ユニバーサルサービス」と営利のバランスにある。小泉内閣郵政民営化論の背景には、銀行業・保険業に対する民業圧迫を除去することがあったと思うが、これは僕は正しいと思う。ただ郵便だけは別だった。それに圧迫されている民間郵便事業など無かったからだ。

 

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 しかしもう今は事情が違う。多くの郵便は電子メールになっている。僕が「郵便」に関わった25年前でも、やってくる郵便物の90%はダイレクトメールだった。それらは本当に必要なものだろうかと思うし、電子メールで簡単に置き換えられるものだ。

 

 この人の意見のすべてがうなずけるわけではないが、元東京地検特捜部の郷原氏の今回のコメントには100%賛同する。100余年前に作り上げた「全国郵便局ネットワーク」と「全逓」という代物はもう賞味期限が切れているように思う。日本郵政全体が必要かどうかの議論をすべき時だ。

 

https://news.yahoo.co.jp/byline/goharanobuo/20191228-00156823/

 

 20年ほど前に聞いた話だが、地方の1郵便局あたり年間1,000万円ほどの使途不明金があって、それが郵政省の予算で補填されていたという。その真偽はともかく、そのくらいガバナンスが緩かったことは事実だろう。

 

 そんな体質を改善できないまま、競争相手を民間金融機関ではなく総務省と思っておられたようなら問題だし、それをうかがわせるような発言「イーブン」だけは、僕は容認できませんね。

「富裕層はズルい」との世論

 大みそかから元旦にかけて、とんでもないニュースが日本を揺るがせた。元日産・ルノーのCEOカルロス・ゴーン被告が秘かに出国、保釈中の身だったのに逃亡したのだ。プライベートジェットで楽器ケースに隠れて出国したようで、映画の1シーンを見るようだ。

 

 逃亡を請け負ったのは、「民間軍事組織」というから穏やかではない。祖国レバノンに帰って、その組織がガードについているような報道もあった。当然、相当額のお金が動いたのだろう。

 

 日本で特別背任などの罪で起訴されているのだが、ルノーの最大株主であるフランス政府は、フランスでの裁判を望んでいたフシもあるし、レバノン大統領も日本政府に引き渡しを要請していた。世界を股に掛けた「容疑者」だが、日本・フランス・レバノンの3国では市民感情に温度差がある。

 

 レバノンでは英雄扱いだが、日本では「墜ちた偶像」というのが当たっているだろう。僕が知りたかったのはフランス市民の反応。いくつかの報道があって、一般市民の多くは「富裕層がズルしている」と捉えているらしい。裁判すらもお金を使えば避けられるというのは、一般市民の理解を得られそうにもない。

 

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 それでなくても、年金改革をきっかけにマクロン政権にデモやストが襲い掛かっているのが今のフランス。ヴェルサイユ宮殿で結婚式を挙げただけでなく、密出国もできてしまう「富裕層」に世間の目は厳しそうだ。

 

 妻のキャロル氏は、フランスでの裁判を希望していたようだが、それが被告に有利に運ぶかどうかは微妙だ。事実上の国有企業であるルノーの元CEOに有利な判決でも出れば、暴動が起きても不思議ではない。

 

 本件に関してはこれまで日本の検察・司法のありかたが前時代的だとの批判があって、8日の被告の記者会見ではこの点が強調されることは目に見えている。確かに長期間の取り調べなど「前時代的」だとの指摘は当たっている部分もあるのだが、世界の世論が日本の司法を叩きはじめるのか、富裕層のズルを批判し始めるのかはよくわからない。興味を持って見守ることにしたい。

 

 それにしても逃亡に鉄道や船ではなくプライベートジェットを使った被告、グレタちゃんにはその点も含めて怒ってやって欲しいものです。