Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

専用システムと汎用システムの狭間

 「生体認証」という技術は、僕が社会人になった1980年代にはすでに研究が進んでいた。一番簡単(ポピュラー?)なものは指紋認証、犯罪捜査など適用例が確立されているもので、従来の写真による判定を入り口(指紋スキャナ)からデジタル化すれば良かった。しかしこの技術には、世論の反発が強かった。指紋でドアの開閉などさせるのは「俺を犯罪者扱いするな」と言われ、特殊な分野でしか使えなかった。

 

 指紋以外にも、生体認証に使える個人識別情報はある。TVドラマ「NCIS」には、虹彩スキャンをして個人識別をしているらしいシーンが出てくる。今のスマホには「顔認証」機能もついている。25年ほど前、日本のデジタル技術者たちが考えていたのが「静脈認証」というもの。

 

 ある企業は「指静脈認証」を、別の企業は「手のひら静脈認証」を掲げて、セキュリティ性向上を訴えた。当時からパスワード(含4ケタコード)を忘れたり盗み見られたりするリスクは顕在化していて、静脈は外からは見えないし変わることもないので適当な技術と考えられていた。

 

    

 

 これらの技術は、高度なセキュリティ性を要求される特定分野(NCISのような捜査機関、金融機関の最重要部分、防衛関連産業のR&D部門等)に採用されていった。しかしこれは非常に狭い専用システムで、デバイスなど作っている事業者としてはもっと広い世界に売り込みたいと思った。そうは言っても、一般消費者対応の「汎用システム」には容易に手が出ない。そこで、その狭間にある分野を探し始めた。

 

 その代表例が、銀行の窓口・ATMシステム。一部門の数十人を対象にした認証ではなく、銀行に口座を持っている人に広げていける。一方、銀行としても指紋認証は問題だが、セキュリティ性が高く利便性も良く、世間に受け入れられるパスワードに替わる方法を探していた。そこで、いくつかの大手銀行で「静脈認証」が採用されたのだが、

 

三菱UFJ銀、窓口やATMの「手のひら認証」来春にも廃止…利用者減少で : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)

 

 という結果に終わった。すでにスマホの顔認証がポピュラーになった時代で、ネットバンキングが主流になっていて、静脈認証登録者が減っていたわけだ。

 

 技術を専用システムから汎用システムに広げること、僕も何度かやってみましたが難しかったですね。狭間に落ちたこのケース、それを象徴していました。