Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

APEC/ABAC2021報告会(後編)

 自由貿易は、ほとんどの産業界の望むところ。僕らデジタル経済屋にとっては「世界でひとつのサイバー空間」が当たり前で、このあたり各国の主権や捜査権の独自性を必須と考える政府関係者とは、意見が相いれない場合が多い。だから自由貿易vs.経済安全保障の議論は、バランスをとるのがとても難しい。

 

 今年のAPEC議長国はタイで、この議論は2022年に持ち越されることになるだろう。早速2月にはABACのリアル会合がシンガポールであるというが・・・。加えてデジタル分野で気になったことが、2つある。

 

 ひとつはデジタルシステムの相互運用性に関して、民間(ABAC委員)と政府側(APEC高級実務者)で温度差があるように見えること。ABACの提言では、各国が独自に作ったシステムやDBを相互接続して、迅速にタスクやデータを交換したいという意図が見られる。これまで企業内の部門間接続、業界内での企業間接続、業界横断の接続をしようとして、いつも障害となったのが、システムやデータのインターオペラビリティのなさだ。

 

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 そこでABAC提言では、難しいことだが一歩一歩インターオペラビリティを実現する手立てをと主張している。例えばニュージーランド・チリ・シンガポールの3ヵ国で議論が進む「DEPA:デジタルパートナーシップ協定」では、データの標準化などが議論されている。

 

 TPPやRCEPのデジタルデータ交換ルールでは、まだ第一歩を踏み出しただけ。本当にデータを相互運用するには、標準化が必要なのだ。それをDEPAは議論していると聞く。しかしAPECの説明では、DEPAの記述は「中国が加盟申請している」としかなく、日本としてどうするのかは白紙のまま。今年のABACでは、このあたり(DEPAの検討)を提言に盛り込んでほしいと思う。

 

 もうひとつはサイバーセキュリティへの配慮不足。民間の方はその重要性を書いていて、イノベーションのためには必要だとの姿勢が見られる。しかしAPECの説明文にはその言葉が無かった。「COVID-19」だけではなく、もうひとつのウイルスも世界で蔓延しているという事実は、APECの場には届かなかったのだろうか?

 

 「APEC/ABAC」はとても古い組織、その頑迷さのようなものが、デジタル屋の目には映りました。さてタイでの議論、期待していますよ。