Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

環境犯罪学の考え方

 サイバー空間の広がりによって、犯罪の手口は飛躍的に増えた。金庫破りをするには押し入ってカギを奪い開けさせるとか、夜間に忍び入って偽造したカギなどでこれを開けるとかの手法によった。中には白昼金庫室に対戦車砲を撃ちこむような荒っぽい手口も、映画化されている。

 

 それが今はサイバー空間で、多額の暗号通貨などをかすめ取るような事件も起きている。犯人は(別の苦労はしたろうが)金庫室に押し入る必要はない。重い金塊やかさばる札束を抱えて逃げる必要もない。日本で多額の強盗事件というと「3億円事件」を思い出す人もあると思うが、先だっての「コインチェック事件」では580億円ほどの暗号通貨(XEM)が失われた。2ケタ違う被害額なのに、世間の注目は「3億円事件」の比ではない。

 

 ただサイバー犯罪とはいえ、犯罪を起こす人間の行動様式や動機についてはリアル世界のものとそんなに違わないと思われる。今回「環境犯罪学」の研究者と話し合う機会があり、興味深い話を聞けたのでご紹介したい。彼によると、犯罪が起きやすい環境というのは、

 

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1)獲物が豊富な環境

2)バレにくい、捕まりにくい環境

3)万一捕まっても、重罪を課せられない環境

 

 なのだという。まあ、自分で犯罪をしようと思えば、この3点は理解しやすい。一方犯罪抑止をしなくてはいけない側には、犯行に都合の悪い環境を作り出す「環境設計」が求められる。その時に留意しなくてはいけないのは、

 

1)犯罪行為を行うものと行わないものの間には、人格的差異はない。

2)潜在的犯罪者は、常に存在する。

3)機会があれば、人は犯罪を行う。

 

 という前提に立つことなのだそうだ。あの人とは長い付き合いだから、いつも笑顔で激高することもない人だから、ちょっとだけ席を外すだけだから、まさかこんなものは盗らないだろうから・・・という考え方では、いつ犯罪被害に遭ってもおかしくないということ。この専門家は米国で犯罪学を学んできたということで、日本の一般市民とは全く社会の見方が違っていた。「性善説」など役に立たない、すべてを疑ってかかるという姿勢だ。

 

 これは昨今流行りの「ゼロトラスト」にもつながるし、金銭目的の犯罪だけでなく諜報的な攻撃に対しても使える考え方である。「経済安全保障」の議論も、こういったスタンスで展開されることが期待されますね。