Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

品質信仰の闇(後編)

 今回の三菱電機の車両用空調装置の品質偽装は、35年続く「伝統」だったらしい。35年前というと、僕は社会人5年目。25歳で入社して、人事のいたずらで田舎の事業部門、東京の研究所を経由して東京本社にたどりついたころだ。

 

 田舎の事業所では「品質第一」と「事業所が○○グループの根幹で、事業所長が社長だと思え、事業所長の命令は絶対だ」と教え込まれた。空気を読めない僕は「じゃあ社報なんかに出てくる社長さんは何なんですか」と聞いた。教官はムッとなりながら「○○グループの組合長みたいなもんだ。事業所長の上がりポストで、実権はない」と言い切った。

 

 組織図上は、事業所の上に類似の製品群を束ねる事業グループがあり、グループ長は役員だ。さらにグループ全部を束ねるのが本社機構、そこに社長や会長がいる。田舎事業所時代には、検査部門の権威に平伏させられた。僕の担当製品はコンピュータ機器の中でもコンシューマ用途に近いものだったので、世界で標準となっている部品やソフトウェアを採用しようと思った。しかし検査部門の課長は、自分の机の後ろに下がっている掛け軸をしめして首を横に振った。

 

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 そこには流麗な筆で「そも、電工作業といふものは、自家薬籠中のものにて・・・」とある。「品質の神様」とあだ名される先達の書ということだった。要は○○グループで育てた技術者や会社以外から、モノを買ってきてはいけない。品質は「自家薬籠中」のものだからだ。後に企画中の製品に「Microsoft-Windows」を搭載しようとしたところ、やはり検査部門長から「自社内で開発したらどうか」とマジで言われて、椅子から転げ落ちた。

 

 「品質第一」で他部門からの提案を受け付けないのが検査部の一面、その頑固さも必要な時はあるのだが、それが障害になることも十分考えられる。僕のように若い時から複数の事業所を回れば、それが理解できるのだが、当時の人事制度からいうと極めてレアケース。入社すれば、その事業所のその部門で会社生活の大半を過ごすのが普通。Goalは部長か、うまくすれば事業所長か。どうしても単一の思考パターンを持つようになる。

 

 事業所間はもちろん、事業所内の部門間での風通しの悪さが、今回の「35年続いた偽装」の原因であることは間違いないでしょう。日本型企業の「品質信仰の闇」の背景だと思います。