Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

半導体産業、栄光と挫折(後編)

 一時期「半導体は産業のコメ」ともてはやされたことがある。比較的単純なメモリチップにしても、労使一体となった設備管理や品質保証で、日本は世界をリードした。当時は不良品(ウェハー上の細かなキズ)を見つけるために、多くの視力のいい労働力が必要だった。そのための若い女性工員を集めようと、彼女たちのアイドルが必要で、ある企業では女子バレーボールチームが結成されてオリンピックでも大活躍した。

 

 しかし対象製品がより複雑な論理構造や細かな工程に進歩してくると、前編で述べたようにボラティリティの高さが目立つようになってきた。業界はグローバルに再編され、先進的な製品を誇る企業も、半導体は(一番安いところから)買うものと考えるようになった。

 

 東日本大震災茨城県半導体工場が被災し、日本の自動車産業が操業短縮に追い込まれたこともある。普通アクシデントを予想して複数企業に発注するのだが、車載半導体のかなりの部分は5次下請けのこの工場が作っていたのだ。自動車産業の調達部門も3次下請けまでくらいは見るが、その下にまでは目が届いていなかったわけ。

 

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 またあしかけ3年前、台湾の半導体大手TSMCサイバー攻撃で3日間操業が止まった。被害額は200億円近いというが、それよりもスマートホンなどの製造メーカーが半導体在庫切れに追い込まれそうになったことの方が、業界的にはインパクトがあった。

 

 さらにEVや自動運転など自動車業界のイノベーションが起きている現状では、車載半導体の需要は急増しているし、今後も伸びる。だから世界中で品薄で、そもそも要求仕様を満たせる事業者は非常に少ない。

 

 再び「産業のコメ」になりそうな雰囲気なのだが、再び日本産業が主導権をとれるかどうか?そのためにはどうすればいいか?答えは前編で述べた通り「儲かる産業になればいい」のである。半導体産業は儲かるときは儲かるのだから、儲からなくなった時の対応、つまりリスクヘッジを誰かが助ければいい。

 

 本当に「産業のコメ」と考えるならば、ここにこそ「公助」を投入すべきではなかろうか?資本主義の原理に任せて置いたら、衰退は明らかである。個々人への「公助」を求める声はあり、大企業を救うことには批判もあろう。しかし経済成長だけでなく安全保障の鍵とする意見もあるなら検討すべきだ。昨日紹介した経産省の会合含めて、勇気をもってこの点を議論して欲しいものですね。