Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

欧州委「AI白書」を巡る議論(1)

 本当はコスモポリタンなのだが、ルーツが米国にあるために「プラットフォーマー」と呼ばれる巨大IT産業は、欧州委員会からは目の敵にされている。先日もアイルランドの欧州本社機能を置くアップルに対し、追徴課税しようとした欧州側の措置は裁判で差し止めになった。税率の異常に低いアイルランドから、欧州全域にサービスしておきながら各国への納税をしなかったというのが欧州委員会の言い分。この種の裁判は今後も続きそうだ。

 

 欧州委員会は税制以外にもデジタル業界の発展に懸念を持ち続けているが、今一番HOTなのは人工知能(AI)を巡る議論かもしれない。欧州委員会は今年初めに「AI白書」の案を示しパブコメを求めた。その結果も出揃ってきて、議論は次のステップに進もうとしている。「AI白書」そのものは、日本語の仮訳で28ページほどの短いもの。冒頭AIが欧州にもたらすイノベーションを歓迎し、以下技術開発にいくら投資するとか、優秀な研究者を集め人材を育成するとか、各国で等しくイノベーションが起こるよう調整するとか、中小企業を取り残さないとか、まあ前向きなことが書いてある。

 

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 問題は中盤以降、「信頼あるエコシステム:AIのための規制枠組」として、AIに規制をかけようとするところにある。現在の欧州各国の法体系では、AIが暴れまわった時にうまく対処できない(網にかけられない)ことを指摘して、どのような規制をするかの大枠(考え方)を書いている。AIに要求されているのは、

 

・人間の代理機能と監視

・堅牢性と安全性

・プライバシーとデータのガバナンス

・透明性

・多様性、非差別、公平性

・社会、環境福祉

アカウンタビリティ

 

 の7点。企業がAIを活用してイノベーションを起こそうとするときこれらの点を評価して採用を決めるべきとして、具体的なチェックリストも付加されているという。特に「透明性」や「アカウンタビリティ」が入っているのが、AIというブラックボックスに見える技術に対する懸念を表わしているのだろう。

 

 実際専門家からしても、AIがどうしてこの結果を得たかは分からない場合がある。囲碁の世界ではAI導入後、「星にカカリを打たないで、即三々入り」が増えてきたが、なぜかと問われても、

 

 「AIがその後の展開を一杯シミュレートして、三々入りが成り立つと判断した」

 

 としか答えようがないと思う。

 

<続く>