Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

医師法第20条(前編)

 「コロナ禍」の中、初診を含めたオンライン診療が解禁されるという。「COVID-19」の感染を疑われる患者が、通常通院の患者に混ざって外来にやってきては院内感染を起こしかねないので、初診をオンラインでというのは妥当な判断だ。

 

 しかしそこから一歩進んで、通常の患者でもオンライン診療を「コロナ禍」中と期限を切ってだがOKにした。一部の国会議員が強硬に主張してくれたと聞いたが、英断だと思う。実は僕らデジタル屋と医師会の間には、30年近い暗闘の歴史がある。

 

 一般に、高度な技術を要する業界ではデジタル技術の普及が早い。しかし例外はあって、医療の業界は診療機器はデジタル化されていくのだが、医療行為そのものはデジタル化が遅れていた。そのハードルとなっていたもののひとつが、医師法第20条の規定。1948年制定の医師法には、

 

 第20条 無診療診療の禁止

 医師は自ら診療をしないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方箋を交付し(中略)してはならない。

 

 と明記されている。この時点ではコンピュータは大砲の弾道計算くらいにしか使われていなかったので、ごく真っ当な条文である。しかし1990年代、PCを個人が活用しインターネットが普及してくると、医師の中にもデジタル技術を使える人が増えてきた。

 

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 もちろん「デジタル応用分野の拡大」を標榜している僕らも、そういう先生を応援し電子カルテや電子処方箋などと並んでオンライン診療をできるようにしようと意気込んだ。そこに立ちはだかったのが医師会・厚生省・族議員という「鉄の三角形」。後年駒込駅に近い情報処理推進機構IPA)に通っていた頃、その通り道に医師会の建物があり、武見議員のポスターが貼ってあったのを思い出す。

 

 彼らとの暗闘は10年以上続いたと、僕の先輩たちは言う。僕は90年代後半にこの件にからんだが、そのころには少し状況は好転していて、1997年に厚生省局長通知で、「遠隔診療は、あくまで対面診療の補完であるが(中略)有用な情報が得られる場合、直ちに医師法第20条等に抵触しない」というのが出て、一応の解禁となった。

 

 ただあくまで「補完」なので、「離島・へき地など対面が難しい場合」が例示されているだけだし、初診は絶対に対面でなくてはいけないとクギも刺された。僕らから見れば、どの専科に行ったらいいかわからない症状の時に遠隔で医師の判断を仰ぎ、例えば外科なのか整形外科なのか分かればそちらに行く方が合理的だ。「遠隔初診」は20余年の争点だった。

 

<続く>