Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

WTOの現状と課題(前編)

 昨秋、イギリスで日英の有識者会合に参加させてもらって、デジタルの井戸の中からちょっと外界を見せてもらった僕だが、その中に「WTO改革」というテーマがあった。デジタル屋から見れば電子商取引ルールの改善と国境を渡るデータの確保が争点なのだが、紛争解決の「最高裁判所」にあたる上級委員が3名を残して任期切れとなってしまい運営に支障が出ていることを教えられた。

 

https://nicky-akira.hatenablog.com/entry/2019/09/25/140000

 

 定員7名のうちさらに2人が昨年末で任期切れになり、新しい委員を米国が認めないので現在委員は1名。これではまるきり非機能状態である。今回経団連の関連部会で、外務省・経産省の担当官から現状や今後の見通しなどを聞く機会があった。もともと1995年に設立されたWTOWorld Trade Organization)のミッションは、

 

・市場アクセスの改善

・ルールの策定

・速やかな紛争解決

・紛争を抑止するための救済措置

 

 の4項目。これを成し遂げるために、二審制の紛争解決機能・協定履行の監視・ルールメイキングをもっているのだが、いずれもが袋小路に入っているのが現状である。

 

        f:id:nicky-akira:20200214221328j:plain

 

1) 紛争解決機能の問題

 迅速な解決のために権限を強めた「上級委員会」の設置だが、米国にとっては「国の権限を越えて横車を押す奴ら」である。トランプ政権だからというわけではなく、以前から上級委員会への不満は米国内にくすぶっていた。それが「America First!」で一気に噴き出したわけらしい。90日以内とされる解決も、問題が複雑化した上に委員が少なくなってますます守られなくなり、米国からは徒に引き延ばされていると感じられよう。

 

2)協定履行の監視

 ここでの問題は「途上国」という位置づけにある。WTO発足当時、中国などの巨大マーケットを仲間に入れるためには彼らにハンディを与える必要があって作った制度だが、今となってはGDP第二位の国である中国はもちろんインド、トルコ、メキシコ、ブラジル、シンガポール南アフリカ、韓国なども「途上国」として交渉上の利得を得ているのはおかしいと誰もが思う。

 

<続く>