以前オーストリア人の作家マルク・エルンベルグの「ブラックアウト」という作品を読んで、そのリアリティある1,000ページを称賛して紹介したことがある。サイバー攻撃によって複雑なシステムに支えられていた全欧州の電力網が徐々にダウン、電力途絶により市民の生活にきわめて大きな影響が出る、ある種のパニック小説だ。フランス・ローヌ地方にあるサン=ローラン原発のメルトダウンによってパリにまで死の灰が降るシーンや、動けない患者に安楽死用の毒薬注射をするしかなくなった病院の話など、印象の強いものだった。
https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/08/22/000000
エルンベルグのようなゲルマン系の人達の、原子力発電やCO2をまき散らす火力発電に対する嫌悪感は強い。正直病的なほどだと、僕は思う。その様な人の多いドイツで、原発ゼロはもちろん石炭火力も2038年までに全廃するという話もある。
現在も再生可能エネルギーをどんどん増やしているドイツだが、それを可能としているのはフランス(の原発)等から電力を買えるという状況である。「ブラックアウト」でも、各国の電力網がつながっていることで、停電が伝染し次々にブラックアウトしてゆくさまが描かれている。
昨年のブリュッセル出張で、ある人のプレゼンに「ヨーロピアン・グリッド」の紹介があった。各国の電力網が相互接続し、他国への依存度がどの国も高まっていることは確かである。ただ彼によると、電力線はつながりながら、本当に柔軟な電力融通はできていないという。
その理由は、僕の専門分野であるデジタル・システムの連携ができていないからだという。各国の、各地域の電力施設を支えているICTシステムが、納入ベンダー・設置時期・基本アーキテクチャ等々がバラバラで真の意味で相互接続できていないのである。例えていえば、みんな顔を合わせて話し合っているが、日本語・中国語・英語・仏語・独語などが飛び交い、お互い何言ってるのかわからないシーンのようなものだ。