戦車の単独市街戦投入は、一般的に愚策である。まず、市街地では機動が限定される。道路は比較的整備されているものの、見通しが効かず速力を上げることができない。もともと戦車の視界は制限されているし、車長などがハッチを開けて身を乗り出せば、銃撃を受けたり手榴弾を放り込まれるリスクが増す。それに建物に突入すれば移動不能になるリスクもあるから、事実上道路に沿ってしか移動できない。
次に歩兵の白兵攻撃を受けやすくなる。遮蔽物があるので歩兵は身を隠して接近できるし、見えなくても戦車の発する騒音でおおよその場所を推定できる。さらに見つかってしまっても、銃砲撃を野原で受けるよりはマシだ。心理的に優位に立った歩兵は、もはや狩られるだけの獲物ではない。
最初の写真は、ドイツ軍2個分隊が守る街にソ連軍T-35戦車(陸上戦艦)が迫ったところである。ドイツ軍の指揮官エンゲルケ伍長としては、できれば戦車をもう少し引き付けたいところだ。分隊Fの中機関銃も、分隊Nの対戦車ライフルも、戦車を撃破できる可能性は低い。一方T-35戦車も75mm主砲の命中精度が低く、建物にこもるドイツ歩兵を簡単に排除する能力はない。45mm副砲や車載機関銃では威力が足りない。
そこで邪魔な分隊Nを威嚇砲撃して追い払い、一気に距離を詰めて石造建物にこもる分隊Fに迫った。隣接ヘクス(距離約40m)に入ったので、命中精度は向上。機関銃火力も強くなる。一方のドイツ軍、中機関銃ではこの距離でもT-35戦車の装甲を破るのは難しい。分隊Nは対戦車ライフルを落としてしまったが、かりに持っていてもあまり役に立たない。
戦車への白兵突撃には、勇気が必要である。このゲームではサイコロを2個振って士気値(両分隊は7)以下の目を出さないと突撃できない。士気値は二線級歩兵や、同盟国軍(ルーマニア等)の歩兵では6、エリート兵(空挺部隊員や突撃工兵、武装親衛隊等)では8となっている。訓練された兵でないと、戦車への白兵突撃は難しいわけだ。
確率的には2個分隊のうちのどちらかはこのチェックに成功し、白兵突撃できるだろう。それでも、固有火力(4)以下の目をサイコロ2個で出せないと破壊できないので、難しいことに変わりはない。確率6/36である。これをソ連軍の方から見ると、1/6の確率とはいえコストをかけた戦車とその乗員が失われるのは痛い。
白兵突撃にしても、戦車と同じヘクスに歩兵がいれば、敵兵はまず歩兵同士の白兵戦を勝ち残る必要がある。白兵戦では固有火力だけがたよりなので、この場合1個分隊同士なら勝敗は全くの五分五分となる。
以前に述べたように、戦車は盾となって機関銃他の火力から歩兵を守ることが第一の存在価値である。一方で歩兵の白兵突撃や近接してのバズーカ等の攻撃から戦車を守るのは、歩兵の役割である。歩兵と戦車が連携する「歩戦共同」の戦術は、非常に有効であることを戦史が証明している。特に歩兵援護のない戦車隊の市街地突入は、あり得ない戦術といえよう。