Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

製薬業界のデータ活用(前編)

 以前から新薬開発をする製薬業界は膨大なデータを扱う「情報産業」だと聞いていたのだが、今回そのデータ活用について教えてもらう機会があった。まず、新薬開発というのは研究開発費率の高い産業である。昨今ではIPS細胞など次々と新技術が出てくるので、R&Dネタが尽きることは当面考えられない。その分R&D費が膨大になるので、世界中で10社強しか存在できない領域である。各社のR&D費は、おおむね売り上げの20%程度になるという。

 それは基礎研究から始めて薬として生産できるようになるまで10〜20年近くかかるし、成功確率は3万分の1と言われるほど「数を撃たないと当たらない」からだ。種々のデータによって、開発初期にダメなものを除去できれば上記の確率が向上して業績に貢献できる。だからデータの獲得や人工知能(AI)の応用などは事業の死命を制する課題なのだ。

 データもいろいろあって、パブリックデータ(誰でもアクセスできるデータ)が充実しているのが、この業界の特徴。地球上の全ての生物の遺伝子情報などはパブリックデータとして、各社個別に整備する必要はない。いろいろな業界で「個社囲い込み」が多いのになぜできるのと聞くと、「最初は個社囲い込みだったが、そのうちにシェアしたほうがお互い得だとわかってきた。大学等公的研究機関の貢献も大きい」とのこと。業界全体が狭い(世界で10社強)のせいもあるのか、「Open Access Science」の理念が浸透しているようだ。

 

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 ただどこかの機関(例えばWHO)がお金を積んでDBの構築・運用・管理をしているわけではなく、小さなDBの寄せ集めのようだ。人類にとって非常に貴重なデータだし維持していくのはコストがかかると思っていたから意外だった。ボランタリーな運営が多いので、例えば有名な某教授が手作りでメンテしていた貴重なDBをその教授が引退することで「どうするんだ」という事件になることもある。

<続く>