Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

IT戦略という指針(2)

 最初のIT戦略である「e-Japan戦略」の公表は、2001年1月。この時点では、予算措置などに大きな影響を与えない、大まかな方針のようなものだったのは、公表時期を見えてもわかる。政府予算は12月に固まるが8月には各府省の概算要求が出てくる。それを財務省が精査するのだが、その時ひとつの基準になるのが政府としての方針に沿っているか、具体的にはそれ以前の公表されている「政府戦略」の中に記述があるか、ということである。
 
 それゆえ来年度の予算に盛り込もうと思ったら、何かの政府戦略文書に7月までには入れ込んでおく必要がある。以後のIT戦略が夏前に公表されるのが普通になったのは、より次年度予算を意識するようになったからだろう。それはともかく「e-Japan戦略」最大の目標は、ブロードバンド・インフラの整備だった。先進国では光ファイバなどのインフラが整い、動画など大量データもやりとりできるようになっていた。
 
 日本はまだ「ダイヤルアップ式」の低速インターネットが多く、高速化が社会の活性化のためにも必要だとの想いが関係者にあった。そこで、ブロードバンドに接続したいと思ったら軒先まで光ファイバが来ていて、直ぐつなぐことが出来る世帯の数とその実施時期を「戦略」の中に明記した。普通政府の戦略や方針は、数値目標や時期の明示をしない。そういう意味でも斬新なものになっていた。

 インターネット用の光ファイバの敷設など環境整備は、民間キャリア(すでにNTTも民営化されていた)の努力によるのが普通である。投資回収を考える民間企業としては、需要予測を越えて設備投資をすることはできない。これでは整備は進まず、先進国との差は開くばかりだとの焦燥感を持った人たちがいたようだ。彼らは「戦略」に書かれている目標数値・時期を達成すべく、キャリアだけに頼らずブロードバンドインフラ展開することを考えた。
 

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 実は、キャリア以外の事業者が敷設した光ファイバが結構あった。電力会社など別のインフラ企業が敷いたものがあったし、政府でも国交省などは堤防に沿って光ファイバを敷いていた。これらを、相互接続・利用できるようにすればいい。もちろんそこには問題が多々あった。いずれの組織も、自分の目的のために敷設しているのであって、相互接続を考えていたはずがない。

 現場の技術的な問題も、オフィスの心情的な問題もあっただろう。それでも相応に相互接続は進み、戦略目標は予定の半分の期間で完遂することが見えてきた。しかし、同時に次の課題も浮かび上がった。ブロードバンドにつなげられる世帯は増えているのだが、実際に日本のブロードバンドの中を通っているデータの量が増えないのだ。土管は立派になったけれど、水は流れていない。「戦略」は次のステップに進まなくてはいけなくなった。

<続く>