Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

補助金と関税の空中戦

 航空機産業は裾野の広い業界だが、最終アセンブリメーカーはかなり絞り込まれてきた。代表格は欧州のエアバスと米国のボーイングである。ただ両社共昨今は苦悩の色が濃い。エアバスは、ある意味社運をかけた巨人機A380の受注が思わしくない。なんとかANAに3機納入したものの、他の航空会社からはキャンセルも相次いで生産縮小を余儀なくされている。
 
 B-747を超える大量輸送機は半世紀現われなかったのは、技術的にできなかったのではなくニーズがなかったからだと気づかなかったのが痛手の原因。事情があって3機運用する羽目になったANAは、JALを槍玉に挙げてハワイ路線にぶつける「苦肉の策」に出ている。それ以外の路線に、大量輸送のニーズが見出せなかったのだろうと思う。

 一方のボーイング、新鋭機の737MAXが2機立て続けに墜落し多数の死者を出した。自動操縦装置系統の不具合もしくは慣熟飛行不足が原因と思われ、犠牲者が出ているだけこちらの方が罪が重そうだ。当然受注は激減、お荷物を抱え込んだ形になった。デジタル化を進める過程でのありうる事故だが、十分にシミュレーション等で不具合を叩きださず人命を失わせた罪は重いだろう。

 さてこの2社、欧州と米国の産業として重要な位置づけにあるのは疑いがない。幅広く奥行きもあるサプライチェーンには、大量の企業・労働者が含まれる。どの国でも雇用の質×量を向上させることは政権の最重要課題だから、いろいろな形で補助金を出すことになる。もちろん中国のように国家が丸抱えするような真似はしないだろうが、程度問題でどの国でもする話。これが「度を越しているかどうか」というのは、国際機関の裁定に任されることになるのだが先にWTOは米国政府のボーイングへの補助金を「度を越した」と判断している。従って欧州はボーイング製品の輸入には関税をかけ、域内産業の保護に乗り出した。
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 もちろん黙っていては男が廃る(か大統領戦が戦えない)ので、トランプ先生も欧州の補助金を受けているエアバス製品に関税かけると言い出した。補助金と関税という2本の腕を使って自国産業を守ろうという、空中戦が始まったようだ。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43553420Q9A410C1FF2000/ 

 第二次世界大戦後、関連部品・素材産業含めて航空機産業の拡大を抑えられてきた日本にとっては、直接の関係は少ない話ではある。しかし今後世界の航空機市場が拡大することを考えると、日本産業界はおいてけぼりを喰わされていると心配する向きもある。第二次世界大戦が空の闘いだったことから、敗戦国の航空機産業がある種の限定をされたことはやむを得ない。
 
 しかし「禍福はあざなえる縄の如し」ともいう。次の時代は空をも越える闘いになるかもしれないなら、そちらに注力するのも国家戦略なのでは?それは何かって?分からないけど、サイバー空間絡みであることは確かでしょうね。