Cyber NINJA、只今参上

デジタル社会の世相をNINJAの視点で紐解きます。

インフラメンテナンスの現場(4)

 自治体としての予算や要員については理解できた。次は、自治体からの発注を受ける事業者(簡単にいえば土建屋さん)との意見交換会である。昨日紹介したように鈴鹿市の「包括民間委託」では、複数社のジョイント・ベンチャー(JV)が受注して施工した例がある。そのJVを構成した6社の社長さんが勢ぞろいした。

 

 40~60歳くらいの人達で、リーダー格の社長さんはパンチパーマっぽい髪型。他の5人は普通のビジネスマンに見える。「○○組」というような、社長の苗字が社名になった会社も複数あり、比較的若い社長もいるのは多分〇代目なのだろう。まず市役所側から「包括委託」の実績説明があった。市の西部(山間部)で、この半年間に合計2,000万円あまりの発注をしていて、50%ほどが雪氷対策、35%ほどが道路除草という。続いてリーダー格の社長さんが、

 

・6社の得意分野が異なり、雪氷対策の経験のない企業もあった。

・重機など持っている設備も、技術者のレベルも異なる。

・委託される業務をどう振り分けていくかに苦心した。

 

 と説明した。苦労はしたが、6社協力はうまくいったと思うと締めくくった。

 

    

 

 公共事業に詳しい専門家からは「作業内容から見て報酬は充分か」との質問が出た。すると「充分とは言えないが、ワシらはこの町を愛している。なんとか町の皆さんの役に立ちたいと思っている」との回答。これにはインフラメンテナンスを担う産業育成を唱えている大学教授が「ボランティア精神では続かない。効率化を図るなど儲かるようにすべきでは」と問うた。答えは「頑張っていく」だけだった。

 

 大学教授が「DXはしているか」と聞くと「ワシらのトシでは、デジタルとかITとか言われても難しい」とにべもない。僕はDXの前提は業務の標準化だと思っているから、各社での標準化はできているか、出来ない点は何かと聞いた。しかし満足な答えはなかった。「ウチの会社にはウチのやり方がある」と言わんばかりだ。6社退席後、市の担当者は「各社の従業員は3~8名くらい。デジタル化は全くできていない。社長はみなDXはワシが死んでからにしてくれと思っている」と教えてくれた。

 

 やはり零細事業者ばかりで、このままでは効率化など望めまい。DX以前に企業としての体制を整えガバナンスが利くようにするのが先決だ。

 

<続く>

インフラメンテナンスの現場(3)

 苦しい自治体のインフラ(特に議論したのは道路)メンテナンス、費用については国が補助したり、発注形態を変えるなど現場の工夫で乗り切ろうとしている。残念ながらDXによる抜本合理化には手が付いていないようだが・・・。

 

 次の論点は、技術とそれを支える人材について。先週熱海の市役所には土木技術者が一握りしかいないと聞いたことを紹介したが、どの自治体も技術者の確保には苦心している。技術者育成の専門家が、鈴鹿市さんと亀山市さんに技術者の充足具合を聞いた。

 

鈴鹿市 人口約20万人、市役所の技術者200名ほど、うち土木技術者が半分くらい。

亀山市 人口約5万人、土木技術者は20名あまり。

 

 土木技術者の対人口の比率はほぼ同じ。しかし規模の法則が成り立って、鈴鹿市でできることが亀山市では難しい。そこで、市内をいくつかに区切り民間事業者(委託先)にほぼすべてを任せる方式でしのいでいるという。亀山市よりさらに人口の少ない(約3.5万人)の熱海市ではむべなるかな・・・。

 

    

 

 かつては大学の土木工学科の卒業生は、地元自治体に就職する人が多かった。僕の高校・大学の同級生も、一宮市役所に入っている。今は大学の土木工学科卒業生は地元に残ってくれない、高専もどの街にもあるわけでもない。工業高校の卒業生を奪い合っているのが現状らしい。

 

 それでも何とか若い人を獲得して教育しようとするが、現場の技術者の高齢化も進んでいる。定年退職した人を再雇用することで、なんとか員数を確保しているわけだ。専門家からは「中途採用をもっと拡充しないといけない。採用条件が40歳未満という自治体もあるが、55歳でもOKに(規制緩和)すべきだ」との意見も飛んだ。

 

 僕は自治体のDXは「電子自治体」だけではなく、インフラメンテナンスなどの現場のDXも重要と思っていたから「ちなみにデジタル系の技術者採用はどうですか?」と聞いた。しかし電気系技術者はいるが、情報系技術者は採用したことがないとの答え。電気系技術者などを情報系の研修に出して、技術習得させるのが精一杯だという。

 

 いくつかの大学で臨時講師など務めて、文系も入れて情報学部を作りました・今度データサイエンス学科を新設します・ウチの目玉は情報学環です・・・などという供給側の話ばかり聞いていた。今、地方には人材が残らないという話をリアルに突き付けられて戸惑ってしまった。

 

<続く>

インフラメンテナンスの現場(2)

 まず鈴鹿市さんから、概況の説明を受けた。三重県東北部に位置する市で、人口は約20万人。高速道路として、新名神自動車道・伊勢自動車道があり、国道1号および23号が市街地を走っている。市の管轄としての道路は総延長242kmほどある。

 

 路面の状態を計る指数にMaintenance Control Index:MCIというものがあり、これが4以下だと修繕が必要、3以下だと早急に修繕が必要となる。現在、4以下が総延長の4割弱、3以下は2割弱だという。これらの数値は5年前に比べて、6~7割増えている。途中まで補修が済んだという道を実際にマイクロバスで通ったが、未補修の部分では確かに乗り心地が悪い。

 

 一方、舗装修繕にかける市の費用(予算)は、2007年の3.5億円をピークに減り続けて、2017年には0.5億円まで落ち込んだ。今は1.9億円まで増やしているが、全く足りないので国からの補助を1.6億円受けて賄っている。

 

 費用の合計としてはピーク時まで回復しているのだが、同じ金額で改修できる道路の長さは1/3ほどしかない。これは工事単価の上昇や、幅員の広い道路が対象になったこと、工法が複雑化(ある意味強化)されたからではなかろうか。

 

    

 

 公共事業なので、基本は入札で事業者を選ぶ。ただ小規模な修繕については、手間のかかる入札ではなく地元事業者複数のジョイント・ベンチャーを作って「包括委託」をすることもあるという。市道のメインストリートの大規模補修のようなものは対象ではなく、下記のような作業をしてもらうのに「地域維持型維持修繕業務委託」と称している。

 

・雪氷対策業務(凍結防止剤設置や散布)

・小動物死骸処理業務

・橋梁補修業務

・道路除草業務

・小規模舗装修繕業務

 

 時節柄雪はないので、舗装修繕業務の完了した現場を見せてもらったが、素人には通常の修繕との違いは見分けられない。こういう努力によって、コストを削減しているわけだ。ただ公共事業の発注に詳しい専門家からは「単価契約で効率はいいが、限度額130万円/件、総額上限3,000万円では対象が限られる」との指摘があった。ある種の規制緩和が必要ということらしい。

 

 またコスト削減効果にしても「市民に見える形での数値化ができていない」との指摘もあった。行政の生真面目さが出て、アピールが下手だということだ。

 

<続く>

インフラメンテナンスの現場(1)

 今回僕が参加させてもらった「インフラメンテナンスの現場を見るツアー」、国交省でこの種の議論をしている、大学教授・建設コンサルタント・経済学者など8名の専門家と、国交省の担当官、サポート役の民間コンサル企業が東京からやってきた。迎えてくれたのは、主な場所を提供してくれる鈴鹿市役所、亀山市役所、三重県と地場の事業者の皆さんである。

 

 社会インフラといっても種類は多いが、かなりの部分は民間運営されている。まあ、再び国営化に傾斜している分野もあるが、

 

・電力 全国10電力会社&自由化後に参入した企業

・通信 NTT、KDDIに携帯電話サービス各社やネット企業

・郵便 日本郵政グループの日本郵便&宅急便企業等

・鉄道 国交省認可の鉄道、バス等公共交通企業

・金融 金融庁認可の銀行、証券会社、保険会社等、ゆうちょ銀行・かんぽ生命もある

 

    

 

 らが担っている。必要なインフラ設備は、基本的にこれらの企業が整備・維持する。しかし国・県・市町村が担っているインフラも多い。例えば道路は、高速道路会社が担う部分、国道、県道、市町村道全体で、日本中のネットワークを形成している。他に河川や水道も国・自治体が管理しているわけで、国交省の中で予算規模が大きいのは、道路局と河川局だという。

 

 比較的潤沢な資源を持っている国に比べて、市町村、特に小規模な自治体はインフラ維持に苦労している。その問題点を議論し、対策を探るのがこの審議会の人達のミッションである。霞ヶ関での議論だけでは限界もあるので、今回このような機会を設けてもらえたわけだ。地方の現場としての問題点を挙げると、

 

・高度成長期に作った多くのインフラが50年以上経過し、老朽化している

・しかし維持に関する予算も増えていないし、削減されることもある

自治体の職員も増えておらず、特に技術者の確保が難しい

・作業を委託する業者も零細規模のものが多く、経営者も作業者も高齢化している

 

 のようなことだ。僕の立場からすると、デジタル化の遅れが気になる分野だ。自治体も委託業者も土木技術者に困っているくらいだから、デジタルの技術者はほとんどいない。新しい何かには予算が付きにくいし、予算化を考える首長も多いとは言えない。現場の人達から、インフラ分野のDXのヒントを貰えれば・・・と思っていた。

 

<続く>

鈴鹿駅・鈴鹿市駅・白子駅

 翌朝は、尾張一宮駅ビルを望む部屋で、早くに目覚めた。出発前の天気予報では、この日は雨ということだったが、最新の予報は「午後には陽も差す」というから一安心。いくつかの「現場」を見学できるので、できれば雨は降らない方がいい。

 

 朝食は駅前に「すき家」があったので、そこで済ませた。東京のいろいろな駅前と比べると、朝食を摂れる店は少ない。単身世帯は比較的少なく、朝食は自宅でという人が多いのだろう。この「すき家」でも、僕以外の客は2人しかいなかった。

 

        

 

 卓上のタブレットで注文したのは「焼鯖朝食」400円なり。味付け海苔、ひじきの煮物、赤だし味噌汁が付いてきた。お味の方は、まあこんなものかというところ。ホテルに戻って身繕いをし、駅に向かった。中心街は寂れてしまっているが、不思議なことに行き交う自家用車は大型のもの(300台のナンバープレート)が目立つ。経済は停滞しているが、個々人は割合豊かなクルマ社会を満喫しているように思う。

 

    

 

 国交省からは前日に「集合場所の鈴鹿駅はICカードが使えません。あらかじめリアル切符を買ってご乗車ください」との案内が来ていた。駅の切符自販機に向かうと「あれ、鈴鹿駅がない」。実は鈴鹿駅はJRの駅ではない。JR関西線の河原田駅から津駅までの22kmあまりは、第三セクターの「伊勢鉄道」なのだ。

 

 国鉄時代は、伊勢線という名称。関西本線は名古屋から河原田を通って亀山方面へ抜ける。一方紀勢本線は亀山から、津・松阪方面へ行く。名古屋から津へ行こうとすると、亀山駅で一度乗り換え、折り返すことになる。それをショートカットしてくれるのが伊勢線だった。

 

    

 

 今も名古屋から津以遠へは便利な路線なので、JRの特急<南紀>や快速<みえ>はこの線を通る。指定された<南紀>より1時間余早い<みえ>に名古屋駅から乗り、鈴鹿駅に向かった。所要40分ほど。のんびり車窓を見ているうちに鈴鹿駅についた。田園の中の高架駅で、降りたのは僕ともう一人だけ。改札口を出ても何もない・・・本当にない。1時間駅の待合室で過ごした。迎えに来てくれた市役所の人によると、

 

鈴鹿市の最も利用者の多い駅は、近鉄白子駅

・市役所は、近鉄鈴鹿市駅が近い

 

 のだが、東京から来る人に名古屋等での乗り換えが楽なように、ここにしたのだろうという。僕は初めて伊勢鉄道に乗れたのでいい経験でしたが、皆さん同じくびっくりされていましたね。